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第3章

ある日、羽田空港で緊急事態が発生した。国際線の大型機が計器故障を起こし、緊急着陸を試みているという情報が入った。

管制塔内の雰囲気が一変し、瞬く間に緊張が走った。警告音が鳴り響き、各所から報告が飛び交う。

「片山、どうする?」

佐藤が険しい表情で問いかけた。片山はすでにモニターに映る機影を見つめながら、冷静に状況を分析していた。緊急事態を発令したのはB777型機のワールドスカイキャリア(WSC)459便。ロンドンから羽田に向かう便だが、着陸直前で計器の異常が確認された。機長からの連絡によると、自動操縦が機能せず、手動での着陸を余儀なくされているとのことだった。

「他の便をすべて待機させてください。この機体を最優先にします。」

片山は落ち着いた声で答えた。その指示は即座に塔内全体に共有され、周囲の管制官たちが一斉に動き出した。

「了解。滑走路34Rを緊急用に確保します。」三津谷が即座に返事をし、着陸態勢だった他の航空機に一斉に指示を出した。

「こちら東京タワーです。滑走路05からの出発便、全機待機。周辺空域の着陸機もホールドパターンに入ってください。」

田辺が冷静に指示を出し、待機指示を受けたパイロットたちから次々と応答が返ってくる。

「滑走路周辺の地上車両を全て撤去しました!」

内田が状況確認を報告した。管制塔内は一丸となり、WSC459の受け入れ準備が着々と整っていく。

一方、真奈美は緊張で固くなった手をマイクから一瞬離し、大きく息を吸った。

「真奈美、大丈夫か?」

片山が隣から声をかけた。その落ち着いたトーンに真奈美は勇気づけられ、再びマイクを握りしめた。

「WSC459、こちら東京タワー。現在の高度を維持してください。滑走路34Rを緊急用に確保しました。」

「了解、東京タワー。現在、計器は使えないが目視で着陸を試みる。」

緊迫した応答の中、真奈美は片山のサポートを受けながらWSC459とコンタクトを続けた。片山は全体の状況を見渡しながら、必要な補助情報を的確に真奈美に伝えていく。

「片山さん、風速が急に変わりました。クロスウィンドが強くなっています。」

篠田がモニターを見ながら報告する。片山は一瞬考え、すぐに決断を下した。

「WSC459、こちら東京タワー。風速が変化しています。修正角を考慮しつつ慎重に降下してください。」

「了解しました、東京タワー。」


________________________________________


機体が滑走路に接近するたびに管制塔内の緊張が高まった。そして、WSC459の車輪が滑走路に触れ、スムーズに減速を始めるのを確認した瞬間、塔内は大きな安堵の息に包まれた。

「やった……!」

真奈美がつぶやき、周囲から拍手が起こる。

「片山、山口、いい連携だった。」

佐藤がにっこりと笑いながら言った。その視線は、15年地方での経験を感じさせない片山の見事な対応に向けられていた。

「片山さんがいなかったら、もっと時間がかかっていたかも。」

篠田が感心したように言うと、片山は軽く肩をすくめた。

「いや、全員のチームワークがあったこそだ。」

片山のその言葉に、真奈美は小さく頷きながら、自分もその一員として役割を果たせたことに誇りを感じていた。

その日の勤務が終わり、真奈美は片山にそっと声をかけた。

「片山さん……今日のこと、本当に勉強になりました。」

片山は少し驚いた顔をしたが、すぐに柔らかく笑った。

「俺も昔は失敗ばかりだった。経験ってやつだよ。」

片山の言葉には、管制官としての確固たる信念が込められていた。真奈美はその言葉を胸に刻みつけ、次の一日も全力で挑むことを心に誓った。

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