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第11話 選定

 吐き気がする。


 この城も。


 あの軽薄な男も。


 ここは表層こそ華美だが、その実は腐臭に満ちている。


 そして当然、私自身からも。


「君は、このまま明日を迎える覚悟はあるか?」か。


 我ながら、よくもまあ言えた物だ。


 私は、寸前で「決定には責任が伴う」とほざいておきながら、今「責任を盾に決定を誘っている」。


 少年は沈黙している。


 当然の反応だ。


 彼はほんの数日前まで、この大地にごまんと居る、年若く、冒険に憧れを持つ純真な男の子でしかない。少しばかし鍛えはしたが。


 しかし、主演不在のままに幕が開く筈がない。


 故に、今。


 演奏の始まるその直前に彼の意思を問わねばならない。


 このまま、私の円舞を踊りきる「覚悟」があるのかどうかを。


 そうだ。


 これは、「私の為」の確認なのだ。


 これは、少年に自らを選択させ、怯懦に屈して演目から中途で逃げ出さぬ為の鎖なのだ。


 ⋯。


 …「覚悟」か。


 やはり、我ながらよくもまあ言えた物だ。



「ねえ、アーシャ」


 暫くすると、少年は口を開いた。


「もし。もし、なんだけれども。僕が怖い⋯って言ったら。アーシャはどうするの」


 先に仮定から聞くか。

 既に腹の底は決めているのかもしれんな。

 やはり聡い子だ。


 贔屓目は否定できないが。


「その時はこの城を脱出して、村に帰る事となる」


「⋯できるの?」


「容易い。まず、私が君を殺した事とする」


「へ?」


「当然、演技だ。私が声を荒げ、部屋を荒らして窓を割る。騒ぎに気付いた人間が部屋まで来たあたりで私が君を抱えて外に飛び出し、そのまま城壁の上まで走り抜けて飛び降りればいい」


「なんかとんでもないこと言ってない!?」


「壁というものは外からの侵入に備えるものであって、内側からの障害にはならん。この周囲は深い水場も多いからな」


「で、でも。そんな事してもすぐにバレるんじゃ」


「十把一絡げの庶民の悲劇の為に、ここの人間が誠意を果たすとは思わん。「遺体」を私が持ち去る以上、碌な捜索もせずに適当な因縁を拵えて終わりだ」


「うっ⋯」


「外に出れば後は村に帰るだけだ。エドワードさんに事情を話せば、君は匿って貰えるだろう」


「⋯その場合、父さんに迷惑掛からない?」


「多少の物資は強奪されるかもしれんが、その時はそれで終わりだろう。奴等の主目的は「賊討伐」であり、自らの「策」を試す事に注力する。改めて言うが、奴等は君等個人には何の関心も無い」


「なら、アーシャは。⋯アーシャはどうするの」


「⋯まさか「殺人犯」が、「被害者遺族」と一緒に暮らせる筈があるまい」


「⋯」


「私は、君の下を去る。よほどの偶然がない限り二度と会うこともないだろう」


 ⋯3年の時が無為に帰す事となるが、その時は致し方あるまい。


 この少年は、私の見込み違いだったという事になるのだから。


「⋯わかった。聞きたい事がないわけではないけど、とりあえず次の事を聞くね」


「なんだ」


「そのようにして僕が逃げた場合。トビアスさんや、この義勇軍の人たちは、どうなるの」


 その問いは「疑問」ではなく、「確認」の声だった。


「どうもこうもあるまい」


 少し前に言った話の続きだ。

 彼自身、既に想像はできているのだろう。


「消費される。つまり死ぬ」


 尤も、賊とはあくまで戦闘を手段に物資を得る集団である以上、素人兵のみだとしても逃げ延びる人間はそれなりに残るとは思うが。


 しかし、彼らの大半が故郷に帰れぬ事となるのは否定しようがない。


 少年の口が固く結ばれる。


 しかし、はっきり言ってしまえば、彼らの死にこの少年の責任は一切存在しない。


 策を弄したのは総督府であり、殺すのは賊徒となった人々だ。


「義勇軍の死」は私たちが来る前に定められていた事であり、その血で手を汚すのも結局は他者である。


 即ち。


 今この場で問う責任とは、「死」にあらず。


「生」にこそある。


「わかった」


 故に、少年の口からその言葉が放たれた時、私は祝福を贈らざるを得なかった。


「僕は、残る」


 アルフレッド。


 ようこそ、私の舞台へ。

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