第9話 密着、義勇軍訓練2時から4時
翌日の朝食で出たのは大量の粥と豆いっぱいのスープだった。
まあ、美味しいし量があるのはいいんだけど、昨晩の肉池肉林を見た後だと見劣りするのはしょうがない。
昨日ウィレムさんから聞いた通り、今日は明日以降行う義勇軍の作戦についての説明があるという事だった。
当たり前だけど、僕はそんな物を経験したことはない。村の寄合すら、たまに外から覗く程度がせいぜいだった。
だから、アーシャにも同席して貰いたかったんだけど、それをしていいかハリーさんに尋ねてみると、彼女には義勇軍メンバーの軽い戦闘訓練をやらせて欲しいと言われた。
確かに、昨日の試験を見た感じ武器は全く持った事がないんだろうなって人が結構居た。
アーシャなら村で自警団の訓練も手伝っていたし適任なのかもしれない。
でもやっぱり、一人で「軍議」なんてものに参加するのは不安だとゴネてみたけど、ハリーさん曰く「軍議なんて大層な事言っているが、実際は道順の説明をするだけだ。最後に地図とルートを書いた紙を渡すから。それを見せれば大丈夫だ」と言いくるめられてしまった。
そんなこんなで、僕は一人で「軍議」に参加する事となったのだった。
軍議過程の内容は、相変わらずウィレムさんが8割ぐらいよくわからない事を一方的に捲し立ててるだけだったので割愛する。
疲れた。
要点だけを言うならば、「南の駐屯地にいる兵士さんらへ荷物を届ける。ルートは総督府を出て道沿いに南下し、森を通り、谷を抜け、川を渡ってもうちょっと」で着くらしい。
ずっと道で行けば良いのではと思い、聞いてみたけど、それは様々な環境に慣れる必要があるからあえてルート変更をしているとかなんとかだと言われてしまった。
そういうものなのかね、後でアーシャに確認するしかないか。
そして今、僕は総督府の外に出ている。中の兵士さんに聞いたところ、ここで義勇軍の訓練をしていると聞いたからだ。
ちょっとは探すかなと思ったけど、それは大丈夫だった。理由は後述する。
そこは総督府から少し離れた荒れ地だった。草がまばらに生える硬い地面で、何本かの木が申し訳程度に影を作っている。昨日の広場とかでもよさそうなのに、わざわざこんな場所を選ぶ理由があるんだろうかと思いながら、僕は仕方なくここまでやってきていた。
そこで僕は見た。
「「「わあああああああああああああ!!!!!」」」
「声が、小さい!!!!!!!!」
「「「うあああああああああああああ!!!!!!」」」
「まだ足らん!!!!!!!!!」
騒音問題な一団がいた。
義勇軍の老若男男全員が模擬の槍を構えて、ただひたすらに叫ばされている。
そりゃまあ、ちょっと外出た時点で見つけられるってもんですよ。
彼らの前にいる鬼教官はもちろんアーシャだ。
そして、何人かの男たちがちょっと離れた木陰でノビていた。なんか折れた剣やら槍も数本転がされている。
一団に近づくのは正直怖かったので、僕は木陰の方に向かい、一体全体何があったのか聞く事にした。
彼らを襲った、そして今も襲われてる悲劇についてその内の1人に尋ねてみた。
その人は、僕の父さんよりかは少し若いぐらいのおじさんで、バーアン村のトビアスって名前だったはずだ。顎髭を生やしている。
彼は以下の様に語った。
曰く、「僕が出ていったぐらいで、急に集められた」
「そして、昨日の選抜試験の様子を見ていたが俺たちの武器の持ち方はなっていない。正してやるから表に出ろと言われた」
「正直、ちょっとカチンとくる言い方だった。そもそも、この義勇軍とやら自体にそこまでやる気もないのに、なんでそこまで頑張らねばならんのだって」
「そうやって不満をあからさまにしていると、ならば今一度俺たちの腕を確認してやろうと言われた」
「昨日の試験の形式で見てやると。そして、もし自分を一突きでもする事ができれば、先着一名で今晩褥を共にしてやろうって」
待った待った待った。
「あ、アーシャが、そんなこと言ったの?!」
裏返って変な声が出た。
「あ、ああ。三つ指付いて平伏し、その望みを望むままに叶えてやろうとまで言われた。半分が目の色変えて飛び出して、半分がそれを面白がって外に出た」
アーシャってそんな事言う性格だったっけか。…なんかいつぞやも水浴びするかと誘われた事があったような。で、結果がどうだったかと言うと。
「そして、俺は多少は腕に自信があったから、真っ先に挑んだ」
「結果、一突き目で槍をふん掴まれて、片手でへし折られた。そしていつの間にか至近距離まで来られてぶん投げられた。怖かった」
でしょうね。遠い目をしてらっしゃる。
「次の奴は剣を踏み折られてた。そして投げられた」
「ならばと複数人で挑みかかったら、そのうち1人が槍ごと振り回されて、全員薙ぎ払われた」
ははあ、その結果がこの惨状と。
「直接挑んで負けた俺たち犠牲者はもちろん、野次を飛ばして見ていた他の奴らもばきんぼきんと景気よくぶっ壊される武器を見て悟ったよ。あの誘いは罠だったんだって」
「完全に牙を抜かれたところで、これから基礎を叩き込んでやる。死にたくなければ従えと来た。頷くしかなかった」
それは、義勇軍として戦場で死なないようにという意味でいいんですよね?「この場で」「手ずから」ではないよね?
「で、後は生き残り一人一人に持ち方と構えと姿勢を教えて矯正もされた後、横一列に並べさせられ、叫ばされ、今に至るという感じだ」
なるほど。
「俺たちはまだぶん投げられた痛みがあるから休ませて貰ってる」
災難でしたね。
「なんというか…なんなんだ?あの人。君と同じとこから来たらしいが」
なんなんでしょうね。
「…正直に言えば僕も彼女の事に詳しいわけじゃないんですけども、確かにアーシャは厳しいし、怖い人ですけど、同時に優しい人」
そこまで言って、僕の脳内にもあの鍛錬の風景がフラッシュバックする。
「なのも確か、だと、思って、いるんですよ。一応。たぶん。おそらく」
「そっちでどんどん不安にならんでくれよ。…まあ、親身に、真剣に教えて貰っているのはよくわかるが、多少は加減してくれんもんかね。君から頼めばなんとかならんか?」
「無理です」
「無理かあ」
あの厳しさはトビアスさんの体にも捻じ込まれたのだろう。わかりきっていたと言わんばかりに肩を落としていた。
「しかし、初日からこれじゃあ体が保たんぞ」
「あ、それなら明日から輸送任務だって事なんで、これはとりあえず今日だけだと思いますよ」
「明日ぅ?!」
そりゃびっくりしますよね。急だし。
「アンフィ市にいる兵士さん達まで物を運ぶ任務だそうです。行軍の練習も兼ねてるだとか」
「南のあそこか、まあ片道3日ぐらいだとは思うが…。この訓練が数日続くのと、あの羅刹姉さんとの旅行が往復で1週間程度続くのとどっちがマシなんかなあ…」
「トビアァス!!!!!!」
「は、はいいいっ!!!」
トビアスさんがぼやいていると、その「羅刹」が僕らの様子に気づいたらしい。
一団の騒音は未だ続けさせられていたが、それを上塗りする声量で呼び付けられ、彼は文字通り飛び上がりながら答えた。
「無駄話ができるほどに回復したならば、直ちにお前もこちらに来い!自発的な連行か強制的な参加かは選ばせてやろう!!」
それは何がどう違うんですかね。
トビアスさんは「うぅ…」と呻き、僕に恨めしそうな目を少し向けてからヨタヨタと歩いていった。
「無駄話」させたの僕ですもんね。ごめんね。
しかし、どうしたものか。
この「訓練」は暫く終わりそうにない。彼らには可哀想だけど。
となると、この「輸送任務」についての相談はまた昨日みたいに夜にでも会いにいk
「アァルフレッドォ!!!!!」
「はいっ!!!!」
「羅刹」の咆哮は僕の考えもかき消した。
「何を呆けている!!!君もだ!!!来い!!!」
え、僕もですか?
「これは君の隊だ!君の軍だ!君が先頭に立ち、君が参加しないで如何する!!」
た、確かにそうなn
「首に縄かけて引き摺り回される無様を晒したくなくば早々にこちらへ来い!!!」
なんかさっきより表現が物騒じゃありませんかね!
しかし、こういう時のアーシャはやると言ったらやりかねないところがある。
おとなしく参加するしかないだろう。
というかいつの間にか手にロープが握られている。どっから出した。
僕も慌ててトビアスさんの後を追った。
時間しておよそ20分。それがこの訓練が終わるまでにかかった時間である。
村でやってた普段の「鍛錬」に比べればぜんぜん大した長さじゃない。
「槍を構えろ!腰を落とせ!!大地を二の足で踏みしめろ!!!」
「「「うおあああああああああああああ!!!!!!」」」
「前を向け!穂先を並べろ!!一歩も動くな、刃を留めろ!!!」
「「「おわああああああああああああ!!!!!!」」」
「吼えろ!叫べ!!喉を枯らして声を張り、敵の意志を圧倒しろ!!!」
「「「だああああああああああああああああ!!!!!!!」」」
でもやってる事はずっとこれですからね。
体にかかる負担は半端なものじゃなかった。
特に喉が。




