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第7話 義勇軍の初日(4)彼女の真意

 厨房で器を借りてそこにスープと茹でた豚を放り込み、パンを幾つか引っ掴んだ僕は、「差し入れ」の名目で会場を抜け出してアーシャのとこに向かう事にした。

 彼女は女性だからという理由で、余っていたらしい部隊長用の個室を貰っている。

 ちなみに、僕も一応隊長になったので一部屋貰っている。

 扉をノックして名前を言うと「入れ」と返答があったので中に入った。

 彼女は片膝を抱えて窓辺に腰掛けながら、外を眺めていた。

 何やっても絵になる人が、絵の題材みたいな事するのは反則ではないだろうか。

 流石に室内だとフードは外しており、窓から吹き込む軽い夜風はその銀髪を静かに揺らし、月の明かりを湛えていた。

「総督閣下殿のせっかくのもてなしをふいにしてどうした。あの料理の半分ぐらいは君らが納めた税なんだからもっと還元して貰ってこい」

「ちょっとアーシャの様子が気になって、ってそうなの」

「総督に給金を支払う奴はおらん。今のあいつの金の出所は、全部この大地、この邦からの収奪だ」

 王様とかそういう人から出るんじゃないんだ…。

 …ちょっと戻ってもう少しお肉貰って来ようかな。

 いやいやいや、違う、違うだろ僕。

「いや、今はいいよ。もう割といっぱい食べたし。それよりもアーシャは何も食べてないでしょ。分けて貰ってきたから食べて?」

 そう言ってもってきた器を差し出す。

 スープから漂う香りが鼻腔をくすぐる。


 ぐぅ。


 いや、食べたよ?

 しっかり食べた。おかわりもしていたはずなのに、匂いに釣られてか僕のお腹はなってしまった。

 げに恐ろしきは成長期ボディ。

 そんな僕の様子を見て聞いたアーシャは、ふぅと一息ついて、

「…一緒に食べようか」と言った。

 そして部屋に備品として置いてあったティーセットを取り出し、ちょっと小さいけどカップにスープを、小皿にパンを取り分けてくれた。

 スープにはお肉も入れてくれた。

 わあい。


「…って僕も食べちゃダメじゃん!これアーシャの分なのに!」

「二杯もぺろりと平らげてから気づくな」

 呆れるアーシャの言う通り、既に僕はスープを一回おかわりして、さらにそれも飲み干してからこれを思い出した。

 スープの器が割と深めだったのと、よそい先がちょっと大きめとはいえティーカップだから、取り分けると四杯分のスープはあった。だから一応アーシャも同じだけ、つまり持ってきた量の半分は食べてる。具は貰っちゃったけど。

 …パンはちゃんと食べて貰ったから!個のうち個は!


「まあ色々手間が省かれたのは確かだ。助かった、ありがとうアルフレッド。私はもう大丈夫だから会場に戻って気にせず食べてこい」

「そうしようかな…、って違う!」

 焼肉は惜しいけど、これで戻ったら抜け出してきた意味がなくなる。…焼肉は惜しいけど!

「アーシャ、聞きたいことがある」

 でも、意を決して質問する。あの行動の意味を。

「選抜試験の事か。あれなら単純な話だ。あのハリー・ベックマンとかいう男が私の想定以上に実力者だっただけだ」

「嘘だ」

 その質問は想定していたと言わんばかりに予め用意していたような答えを出して機先を制してくるアーシャに、僕は即座の否定で対抗した。彼女の目が少し動く。

「…嘘ではない」

 それは本当なのだろう。でも、アーシャの誤魔化し方はもう知ってる。彼女自身が教えてくれた。

 彼女は僕に嘘は言わない。勘違いを仕向けるんだ。

 さっきの答えだって「ハリーさんが思ったより強かった」とは言ったが「だから負けた」までは言っていない。でも、それが結論だと思わせようとしている。

 つまり、彼女の逃げ道を閉ざす形で物を尋ねないと、たぶんまたはぐらかされて終わってしまう。

 ならば。

「なら、この問いに「はい」か「いいえ」で答えて。アーシャ、わざと負けたでしょ。自分から剣を捨てて」

「……気づいていたか」

 いや、そこは「はい」か「いいえ」で答えてよ、強情だなあ。

 でも、賭けには勝ったっぽい。あの時、彼女が実際にズルをしたのか確信はなかったし、半分以上ハッタリだったけどアーシャはこれを認めた。

 ならば次に聞くべきはその理由だ。

「それは、僕に部隊長の座を譲るため?…僕を、喜ばすため?」

「…前者については「イエス」だ。そして後者については」

 唾を飲み込む。しかし、これは意地でも「はい」では答えてくれなさそうだな。

「「いいえ」とは言えない」

 そっちでは答えてくれるんかい。

「…なんでそこまでしてくれたの?」

 逆に出てきた想定通りの答えで僕の気勢が少し削がれる。そして、そんな言葉がポロッと口から漏れた。いや、これが今回アーシャに聞きたかった事の核ではあるんだけども。

 彼女が口を開く。

「私が君の下にいる方が君を守りやすいと考えた。自由に動くためには名目上でも立場がない方が都合が良かった」

 ふむ。

「故に、元より君が隊長を勝ち取れるならばその座は君に譲る気だった。そして、試験直前の君は素直に隊長になりたいと望んでいるように見えた」

 そういえば、直前に試験対策で色々教えてって聞いたの僕でしたね。

「だから、多少は喜んでくれるかなと思う気持ちがあったのは否定できない。だが、流石にこれは君の自尊心を傷つける礼を失する行為だったな。すまない」

 い、一気に答えてくれるじゃん。

 むう、気を回して貰って、それで不満に思っちゃうなんてちょっと子供すぎただろうか。いや子供なんだけども。

「悪かった。アルフレッド」アーシャが頭を下げる。

「い、いや、僕もちょっと言いすぎたよ、ごめん」

 まさか頭まで下げてくれるなんて思わなかった。これじゃあ、僕がアーシャを責めに来たみたいになってしまった。いや、問いただしにはきたんだけどさ。それは答えて貰ったし…。

「しかし、これを抜きにすれば他の参加者を上回ったのは君自身の力だ。誇れ、君の実力は僅かこの一年の間だけでも確実に上昇している」

「あ、ありがとう…」

 しかも真正面から急に褒められてちょっと顔が赤くなってきた。

「本番は明日からだぞ隊長さん、そろそろ休め。それか、今から戻れば料理もまだちょっと残っているかもしれんな」

「う、うん。そうする!じゃあまた明日ねアーシャ!」

 またなんか誘導されてる気もしたけど、僕は気恥ずかしさからのくすぐったさに耐えられず彼女の部屋を後にする事にした。疑問自体は解消されたしね。


 尚、食堂に戻ったらお肉はもう全部なくなっていた事をここに記載しておく。

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