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第6話 義勇軍の初日(3)歓迎パーティ

 あの後、義勇軍の結成を祝うパーティ(ウィレムさんが言うところの「めでたき日を祝す宴席」)が開かれる事となった。

 僕は最初、あの立派な建物(政庁というらしい)で行われるのかなと思ってたけど、実際は兵舎の食堂で行われた。

 今は開会の辞だなんだで、ウィレムさんがまたなんやかんやと喋っているところである。


「今、兵がある。我ら五十余名、ここで義の盟約を結まば、それ即ち軍となる!軍に将あり、将に主君あり!行動の中心に正義と報国、献身を奉じ、個々の中心に我らが総督ユストゥス・アルカンへの忠誠を…」


 相変わらず何言ってんのかよくわからないんだけども、それを聞く僕たちの態度は結成式の時とは打って変わって真剣そのものだった。

 まあ、その「真剣」さは何に注がれているかというと、「耳」ではなく「目」にではあるのだけれども。後「鼻」。

 目の前には、「宴」の料理が既にもたらされていた。即ち、山盛りのパンとスープ。そして焼いた肉と焼いた肉と茹でた肉。要は肉。

 パーティ?という感じはあるが、このストロングスタイル、嫌いじゃないよ。

 それは、周りにいる他のみんなも同じなようで、文字通り目の色を変え、背筋を伸ばしてホスト(主催者)の話を真面目に聞く素振りをしている。

 でも、やはり内容はよくわからない。

「…今宵は無礼講である。諸君!今日は遠慮せず、思うがままに呑み、食い、楽しんでいってくれ!我らが出会いに、我らが戦士に、我らが義を祝して、乾杯!」

「「「乾杯!!」」」

 そして若干のフェイントを挟んで、いよいよ「待て」が終わり、みんな一斉に喰らい付き始めた。

 お肉なんて普段の生活じゃ、皆無とは言わずともなかなか食べられるものではない。

 それが今は目の前に盛り盛り山盛りになっているんだから、そりゃ今がチャンスと食い貯めるに決まってる。

 味もかなり美味しかった。流石は偉い人のとこの料理人ってところだろうか。


 アーシャも来ればいいのに、と思った。

 彼女は、今この宴の席にはいなかった。なんとこのパーティが始まる直前に「気分が優れない」と言って部屋で休むとか言い出したのだ。

 まさか、ハリーさんに負けた事がショックで寝込んでるという事はあるまい。だって、あれは…。

 ちょくちょく考え込む癖があるっぽい僕がまた思考の中に沈もうとしていると、

「盟主殿〜、楽しんでおられますか〜?」と声をかけられた。

 振り向くと顔を赤くしたウィレムさんが居た。

 酒臭っ。もうどんだけ飲んでんだこの人。

 側にはハリーさんもいる。護衛って事でもあるんだろうか。

「馳走はまだまだありますでな。勇士諸卿らには明後日からの任に向け、今からでも英気を養って頂かねば」と言ってまたグラスをあおった。

「は、はぁ…、明後日?」

 もう早速?

「明日軍議を執り行います。とは言えご心配召されるな、簡単な輸送任務です。行軍の訓練だと思って頂きたい」

 それなら、まさに今日会ったばかりな僕らだけでも行ける…のか?後でアーシャに聞いとこかな。

「無論、いきなり戦の荒野に着の身着のまま放り出したりは致しませぬ。装備は此方にて用意をし、同行する隊もつけましょう。そして卿らには、補助役としてこのハリーも同行させましょうぞ」

 一応、ちゃんと考えてはくれてるっぽいのかな。

 すると、次はそのハリーさんの方が僕に尋ねてきた。

「アルフレッド・ファーン。お前はローサンヒル村から来ていたと思うが、同じ村から来たアーシャ・ライルとは親しいのか?」

 なんか若干の警戒心を感じるんですが気のせいですかね?

「おお、アーシャ女史か。義勇軍の紅一点!然れば彼女は今何処に?」

 どう答えたものか悩んでいるとウィレムさんが口を挟んできた。

「あー…、ちょっと気分が優れないとかで…」

 実際そう言ってるのだから、そうと伝えるしかない。

「なんとそれは一大事。医者の用意をさせましょうか?」

「いえ、そこまでは大丈夫かと。…実は彼女結構な自身家でして、さっきの試験でハリーさんに負けたのがよほどショックだったりしたんじゃ、ないかなあって」

 たぶん違うけどね。

「フム、さようで。ま、確かにこのハリーは強い。なんせこやつは先の戦の半ばごろより、当時「帝国四将」として名を馳せた叔父上の下にて槍働きで身を立てた、今や10年余の長きに渡って我々に仕えし熟練の戦士!女だてらに剣士の真似事をした程度では到底敵いますまい」

 …なんか一言色々多いんだよなこの人。普段は単に文字数多いだけだけども。

 アーシャだって経歴では負けてないよ、なんせ9歳からだって言うんだから。


「ま、まあまあ閣下、勝負は時の運。あの時はたまたま私に軍配が傾いただけですよ。さささ、もう一杯もう一杯」

 僕のムッとした態度を感じ取られたのか、ハリーさんは露骨に話題を逸らした。

 ウィレムさんは「おお、おうおうおう」と言ってグラスに注がれると、それをすぐに飲み干した。

 すると口に塩気が欲しくなったのか自分のテーブルに戻っていった。

 後に残ったのが僕とハリーさんである。

 そして彼はもう一度アーシャの事について尋ねてきた。

 隠してもしょうがないし、騙せる気もしないので、僕は正直に伝える事にした。

 三年ぐらい前、急に村にフラッとたどり着いて、それ以降は僕の家に住んで、その代わりに剣を教えて貰っているという事。

 そして、正体について知りたいのはぶっちゃけ僕も同じだという事も伝えた。

 実際、知らないものは知らないとしか言いようがない。唯一知ってる「9歳が初陣」だという彼女の経歴についても、言ったところで信じるわけがないと思ったから言わなかった。

 結局、伝えられたのは「僕とアーシャは親しい」という事ぐらいだと思う。

 それを聞いたハリーさんは、僕の言う事を信じたのかどうかはわからないけど、「邪魔したな」と言って立ち去っていった。


 …僕は僕で気になる事があるんだよね。

 アーシャの「直近の」過去、あの試験の時の行動について。

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