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第5話 義勇軍の初日(2)選抜試験 

 「よっしゃ坊主、試験開始だ。いつでもどっからでもかかってこい」

 総督府の傭兵隊長であるというハリーは、僕が剣を構えるとそう言った。


 試験会場とされたのは、さっきの広場だった。

 そこには石灰岩か何かで擦ったらしい白いラインが本あり、それが双方の初期位置となった。

そして、ハリーさんの合図で試験開始となったのである。

 ちなみに、ウィレムさんはさっき受付があったテントに椅子とテーブルを持ち込ませて何やら飲んで見物している。


 剣を正面に構える。

 相手は模擬刀の刃の部分を肩に担いだりと余裕っぽい雰囲気を醸し出しているけれども、目線自体は僕の手と剣をしっかりと睨みつけていた。

 いつも通りに、普段通りにできればそれでいいというアーシャの言葉を思い出す。

 状況としてはいつもの彼女と行う訓練と同じだ。武器を構えて、対峙して、一発でもいいから相手に食らわせてやる。

 しかし、僕に「長期戦」という選択肢はない。

 単純な話である。僕はまだ「坊主」であり、向こうは体も仕上がった現役の傭兵だ。

 つまり、体力において僕の方が不利なのは明白。打ち合ってたら力負けもしそうだしね。

 ならば行うべきは初手の一撃で全部決める短期決戦だ。

 その時、ふと思いついた。

 試験で求められているのは、あの傭兵の人に一発ぶつけてやる事だ。

 ならば今一度、あの週間ぐらい前の訓練時にちょっと試した「叫びながら一気に近づいて全力で振り落とす」というあの戦法を試してみる価値は結構あるんじゃないか。

 虚を狙えるかはともかく、結局のところ僕が一番速く、そして強く打ち込める方法はそれになる。

 あの時は大声を出すのにちょっと意識を割いていたから、今度は脚と腕に全力を出す。それはそれとして声で気合い入れる。

 よしこれだ。

 これで行こう。

 これしかない。


 正面に構える。

 息を整える。

 心を決める。


「ハァッ!!」

 脚を出す。

 地を走る。

 駆ける!


「ィヤァーーーーーっ!!!!!!!!」

 腕を振り上げる。

 腕を下ろす。

 落とし抜く!


 っガァン


 と金属がぶつかり合う重く鈍い音が響いた。

 僕の渾身の一撃は、ハリーが上段で横木に構えた彼の剣であっさりと防がれてしまった。

 彼は、僕と僕の剣の動きをしっかりと捉えていた。

 …真上に剣を構えて突っ込んだらそりゃ振り下ろすと思いますよね。

 そして、馬鹿正直に縦に振り下ろせばそりゃ横に剣を置きますよね。

 んでもって、いくら力いっぱい叩きつけたとは言え、そっちの剣を折れるほどじゃないんだからそりゃ防がれますよね。

 終わってみれば当然至極の当たり前な結果だった。


 そして、僕がそんな色々考えているという事は、当然体は動いてないわけで。


 ぱすっ


 と僕の肩がハリーの剣で叩かれる音がした。


 あ。


 逆にこっちが一本取られてどうするの!!!!


「惜しかったな。ファーンとやら」

 勝ち誇られた!?

「今の一撃は悪くはなかったが、振りが流石に正直すぎるぞ。後、失敗したからって固まるのは論外だな。今は模擬だからいいが、実戦だったらあんたの首はもうくるくるとどっかに飛んでいる」

 首飛ばしって戦場ジョークの鉄板だったりします!?

 というか、なんか終わった後の雰囲気出されてんですけど!でも評価はありがとうございます!


「うーむ、しかしなあ。あくまで即決の条件は「俺から一本取る」だからなあ…」

 一応、判定自体は「成果でもって判定」するはずだし、まだ終わったわけではないのかもだけど。

 というか、結局のところアーシャが最後に全部もっていく気がしないでもないんだけども。

 でも、あそこまで自信満々に名乗り出てこの結果というのは。

 正直。

 恥ずかしい。

 なんか叫ぶ気も出ないぐらい恥ずかし…

「保留」

 ん?

「力と速さについては申し分なし。鋭さも及第点。思い切りもいい。あくまで「素人としては」だとしても」

 お?

「ただ、結局は俺から一本取ることをできてねえし、最後に足を止めたのはどうしようもない減点要素だ。よって保留他にこれ以上の結果を出す候補者が現れない限り、このローサンヒル村、アルフレッド・ファーンを義勇軍の隊長とする」

 まさか。

 まさかの展開である。

 そんな僕に都合のいい展開でいいんですかありがとう!!

 ひゃっほう!!


 この後、他の村から来た人たちの試験が行われたのだけど、確かにアーシャの言う通り僕以上の実力を持つ人はいないらしかった。

 まず、ハリーさんは防御すらせず、基本的に回避のみで相手をあしらい、そして一本をとっている。

 たまに防御する時も、僕の時みたいに受け止めるというよりは、弾く、流すそして一本という感じだ。

 しかし見ていて思うのは、そもそもの話としてこの「義勇軍」に対しみんなは根本的にやる気があまりないらしい事だ。


 理由はわからないでもない。

 実のところ、村は別に暇ではない。やるべきことはいくらでもあるし、もう少ししたら収穫の時期も目に見えてくる。

 そして、賊に関しても正直実感がない。そんな者居ないとまでは言わないけど、僕らはまだ襲われていない。

 なんなら賊に取られる前に領主様が結構な割合を持ってく。賊と税吏の違いは服の仕立てだって村の誰かが言ってた。

 僕自身は「義勇軍で悪鬼匪賊を打ち倒し英雄に!」という思いがまだ一応あるからそこがやる気の原動力になってるけど、そうでなければただただ面倒なだけなのだろう。

 …もしかして、僕ももっと気を張らずに行っても大丈夫だったのでは?

 いや、あくまでハリーさんの心を動かせたのは僕が全身全霊でぶつかったからだ。

 そう思う事にした。やった努力を否定したくはない。


 と、そんなこんなを考えていると選抜試験は次々と終わり、ついに最後の挑戦者の手番となった。

 最後の挑戦者はもちろんアーシャだ。

 ちなみにウィレムさんは、試験が半分ぐらい終わったところぐらいで奥の立派な建物に帰っている。あくびしてたから多分飽きたんだろう。

 

 うーん、負けて!とは思わないけど勝たれると僕の大将の夢がなあ…。

 ハリーさん頑張れ!ってのは違うし。

 アーシャに勝って欲しいという思いも普通にあるし。

 指揮官のアーシャの姿もカッコ良さそうだとは思うし。

 うーん。


 悩んでるうちに、二人は配置に付いた。

 アーシャは正面に剣を構える。

 そして、なんと今回はハリーさんも剣を上段に構えた。

 両者の視線が交差する。

 睨み合いのまま時間が経過する。


 ハリーさんがじりじりと剣を構えて躙り寄り、そして離れてを繰り返す。間合いを測る。

 一方のアーシャは全く動かない。

 しかし双方の目線は互いを捉えている。

 ギャラリーである僕たち義勇軍メンバーもついつい息を忘れそうな勢いでこれを見守っていた。

 ウィレムさんもこれ見てから帰ればよかったのに。これなんかすごいよ。たぶんすごいよなにかが。


 沈黙。

 沈黙。

 沈黙。

 汗が流れる音すら聞こえそうな静寂が広場を包む。


 しかし均衡が崩れるのは一瞬だった。


「ハアッ」という気合い一閃、宙を薙ぎ。


キンッと刃の触れ合う音響き。


カシャンカランと剣が地に落ち、倒れる音が木霊した。


 何が起こったのかよくわからなかった。

 一瞬のうちに決着がついていた。

 なんと、弾き飛ばされ、地面に落ちたのはアーシャの方の剣だったのだ。

 踏み込んで剣を振り抜いたのはハリーさんの方だった。

 一方でアーシャは、未だ姿勢はそのままに、少しだけ後方に移動しているように見える。


 彼女は「参りました」と告げて一礼し、僕たちの方へやってくる。

 ハリーさんはまだ動かない。

 剣を振り抜いた姿勢のままじっと固まっている。

 アーシャが近づいて来た。

 一応負けたのは彼女であるはずであるのに、その表情には、その赤い目には、悔しさはおろか相変わらずなんの表情も感じられない。

 頬に一筋の汗すらなかった。

 彼女が僕たちの目の前にまで来た時は、特に何も言われてないのに気がつくと道を開けてしまっていた。

 彼女は軽く頭を下げ、僕らに礼をするとその間を悠然と歩き、そのまま義勇軍参加者の休憩所だと言われた兵舎の中に入っていった。

 結局フードは外す事も外れる事もなかった。


 また沈黙が流れる。


 沈黙を破ったのは、

「なんだ、終わっていたのか。結果は?」というウィレムさんの声だった。

 ハリーさんはまだ固まっていたが、その声を聞いてやっと何かに気づいたかのように、一瞬首筋に手をやった後、額の汗を拭い、

「こ、これより試験の結果を発表する!」と告げた。

 そうだ、試験。今試験やってたんだよね義勇軍の選抜の。

「最優秀者、アルフレッド・ファーン!」

 お、おおー。

 周りの人たちも、まだ少し戸惑いながらもぱちぱちとまばらな拍手をしてくれた。

「ほう子僧、お前がトップか。まあ、さにもあらんや。お前の動きが一番マシだったからな」

 そう言うとウィレムさんはコホンと咳払いをし

「ここに、総督ユストゥス・アルカンの名において、我は汝、アルフレッド・ファーンを義勇軍の盟主である事を認め、これを任じるものである!」と宣言した。


 わ、わーい?

 喜んでいいのかな。

 喜んでいいはずだよね?

 求めていた結果ではあるはずだけども、はっきり言って釈然としない。


 なぜならば、あの時、僕の気のせいでなければ、僕の見間違いでなければ。

 アーシャは、ハリーさんの剣が届くよりもその前の、その寸前で、


自分から、剣を手放しているように見えた。

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