第2話 思ってた以上に色々違う現実
さて、板がある。
クソでかい板である。
僕の家が縦に2個ぐらいは重なりそうな空間にすっぽりと嵌った二枚の板が目の前にある。
分類上、これも扉と呼称するらしい。
あの井戸での父さんとのてんやわんやと家でのアーシャによる拉致未遂計画という衝撃の自白の後、父さんは寄合所に村の人たちを集めて、領主様の呼び出しに応じるローサンヒルの代表者は僕とアーシャに決まった事が発表された。
自分が「忠勇のなんとか」ではない事を残念がる人はほぼなく、むしろ面倒を避けられたとあからさまにホッとしている人がちらほらいた。
村の自警団をやってるカイルはちょっと残念そうだったけど、アーシャがいなくなるならまた俺の天下だと少しふざけた口調で言っていた。
僕が行く事に対してはみんな多少心配してたけど、二言目には「まあアーシャ居るし大丈夫だろ」と続いた。
わかる。正直僕も割とそう思ってる。
と、そんなこんなで村のみんなとの挨拶が済み、その日はやっとぐっすり眠る事ができた。
そして翌朝にはみんなに見守られて、僕は生まれてはじめて、日帰りの予定でなく村の外に出る日を迎えたのである。
村から総督府までは、大体5日ほどかかった。
アーシャがけろりとしてるのはもはや前提として、僕自身も思ったよりは疲れなかった。
むしろ大変だったのは歩く事よりも歩いた後だった。
この旅程の最中、夜は全て野営で済ますことになったのだが、初日こそアーシャがすごいテキパキとその準備をしてくれたのだが、その翌日からは全部僕に丸投げになった。
そして、最初見せたんだから後はできるだろうと言わんばかりにあの赤い瞳でじっと見つめられた。
結果、アーシャの倍ぐらいの時間をかけて火やらなんやらの用意をして準備が終わり、出てきた評価は「赤点」だった。厳しい。
因みに、総督府到着直前の晩は「今日は火を使うな」と言われた。理由を聞くと「何事も経験だ」との事。いや、まだちょっと肌寒いよ?頑張ったけどさ。
そして、そんな道中を経てやっと総督府へと到着し、僕は5日ぶりに人造の建物を見た。
ともあれ、これでやっと冒頭の僕へと辿り着くのである。
そう、今僕の目の前にあるのはレギ・ペトラ総督府の南門であるのだ。でかい。
そして僕の足元には跳ね橋があり、僕の脚ぐらいの太さはあるロープが繋がっている。これまたでかい。
そして左右を見たら、天高く積み上げられた城壁がズラッと伸びている。ああでかい。
当たり前だけど、ローサンヒルにこんなもんはない。
目に入るもの全てに僕は圧倒され、あちこちキョロキョロと誰がどう見てもお上りさんの挙動をするしかなかった。
槍を持って鎧をきた門番らしきおじさんが生暖かい目でこっち見てるのはわかるけど、いや我慢するのは無理だよ。すごいもんはすごいよ。
と、僕がこんな感じなので門番さんはアーシャに要件を尋ねる事にしたようだ。
まあ、見るからに保護者はそっちよね。
「ここはレギ・ペトラ総督府である。市民による無用の入城は許可されていない。何用か」
とおじさんが問い、
「総督閣下の用命に基づき、ローサンヒル村より参内したアルフレッド・ファーンとアーシャ・ライルと申します」
とアーシャが答えた。
村に余ってた募集ビラも見せている。
それを見たおじさんは、いかにもああまたかって顔を
「あー…、またか…」
そのまま口にしますかね一応こっちはそっちに呼び出されて来てるんだけども?!
「了解した。アルフレッド・ファーン及びアーシャ・ライルの計2名、入城を許可する。開門!」と一気に言って、たぶん内側なり壁の上にいる人にそれを伝えるためであろう鐘をカランカランと鳴らした。
あっさり開いてむしろ僕はびっくりした。
「あの…いいんですか?身体検査とか、そういうやつ」と、ぶっちゃけこのまま通れるなら楽なのに、思わず聞いてしまったほどである。
「ああ、いいんだよ。いいんだよ。またウィレム様の思いつきで村人集めてんだろ?」とうんざりした様子でおじさんが話す。
「農民が数十人集まったところで、仮に全員が武器を持っていたとしてもなんとでもなる。別にいいよ」と付け加えた。
…たぶん、素手どころか両手ふん縛られてても「なんとでも」できなさそうな人があなたの目の前にいるんですけど大丈夫なんですかね。
てか数十人?アーシャの想定からすらもっと少なくない?
門と城壁を潜った先は広場になっていた。
どうやら、ここに集まっているのが件の「義勇軍」らしいのだが。
「ねえアーシャ、なんか…」
「見窄らしいか?」
「流石にそこまでいう気はなかったよ?!」
そこにあったのは、最初この「義勇軍」の話を聞いて想像した物を、アーシャの話を聞いてダウングレードさせた物から、さらに7割ぐらい見栄えを差っ引いた光景がそこにあった。
まず、僕らみたいな村人たちである。
僕ほどはいないものの、たぶん村の若手なのであろうお兄さんたちと少しのおじさんとちょっとのおじいさん。
ひとまずその平均年齢は置いといても、ただ数が確かに数十人ぐらいしかいない。
彼らの前には、なんか使い古されてるテントに机をおいて書類に何やら書いてる役人風のおじさんがいた。あくびしてる。
いや、「玄王戦記」の始まりみたいに主人公が義兄弟二人と義勇軍を結成して云々みたいなかっこいいシーンは無いって事ぐらいは流石に理解してるよ?あの夜の、…あの夜の!アーシャの話を聞いて、妄想は妄想として色々考えてたよ?
それでも…もうちょっと華やかさか何かぐらいは…。
「諦めろアルフレッド」
うう、アーシャ…。
「目の前にある物が現実だ」
あのビラを見た時には、絶対何かあるってビビっと感じたのにいい!!!!!!!!




