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二人の出会い

 岩下いわした鉄男てつお39歳は自由時間の多い仕事に就いている。

 給料は少ないが、趣味に使える時間が多いことのほうが彼にとっては重要だったのだ。

 一生結婚する気はない。セクシーな熟女が好きではあるが、結婚したら趣味を諦めなければいけないとネットで見聞し、それからというもの一生独身を心に決めているのだった。


 彼の趣味──それはコスプレである。


 日曜朝のメジャーなヒーロー物からマニアックな物まで、色んなヒーローのコスプレをするのが生き甲斐であった。


 コスプレ会場に参加するなど、その姿を誰かに見てもらうなどということはしない。恥ずかしくてできないのだ。


 ワンルームのアパートの部屋でこっそりと、ヒーローのコスプレをした自分の全身を姿見に映したり画像や動画に撮ったりすることだけでとりあえず満足できていた。

 ほんとうはそれをネットで拡散し、みんなに見てもらいたくはあったが、恥ずかしくてどうしてもできずにいた。





『コスプレショップぱふぱふ』──鉄男はこの店の常連である。


 アニメやゲームキャラのヒラヒラした衣裳には目もくれず、入店するなり彼は一直線にヒーローコーナーへと突き進む。


 さまざまなヒーローになれる衣裳がそこにはあった。特撮ヒーローからアメコミまで。

 それらは単なる衣裳ではなく、鉄男の目の中で動きだし、勇ましくポーズを決める。

 キラキラと鉄男の目は輝き、ついつい手足が勝手にポーズを決めてしまう。


「それ、お面ライダーガッチャーンの変身ポーズのつもりですかぁ?」


 誰にも見られてないないつもりでポーズを決めていると、背後でくすくす笑いとともに女の子のそんな声がし、鉄男は慌てて振り向いた。


 よく見る子だった。言葉を交わしたことはなかったが、この店でヒーロー衣裳コーナーの常連といえば、自分の他にはその子しかいなかったので、顔を覚えていた。


「み……、見たな」

 思わず怪人のような声でそう言ってしまった。


「動きが自信なさげすぎー」

 女の子がまたくすくす笑う。

「おじさん、いつもこのコーナーに来てますよね。好きなん?」


「す……、好きで悪いか」


「だってぇー、いいトシしたおじさんがこんなの好きだなんてー」


「へ……、へんだっていうのか」


 すると女の子は黙り、考え込むような素振りをすると、にこっと笑い、言った。


「へんじゃない。あたしも女のくせにヒーロー好きだもんね」


「ぷ……、プリキュアとかじゃなくて?」


「うん! 特にアメコミのね──」


 女の子はそう言うと、めちゃめちゃマニアックなヒーローの名前を口で並べはじめた。

 この子とは話が合うと鉄男はすぐにわかった。ただ、女としての魅力は感じていなかった。可愛い娘なのだが、ガリガリといってもいいほどに細く、色気がない。やはり鉄男はセクシーな熟女が好きなのだった。


 気が済むまでヒーローの名前を並べ立てると、女の子はようやく満足したように口を止め、うっとりと笑った。


「素晴らしいな……」

 鉄男は思わず口から言葉を漏らしていた。

「おまえみたいな若い娘っ子がそんなマニアックなヒーローを知っているとは……」


「ふふふ……。おじさん、友達になってくれる?」

 女の子は警戒心などまったく窺えないフランクさで言った。

「あたし小仲摩こなかまユキ。大学二年の二十歳よ。おじさんは?」


「岩下鉄男、39歳。会社員をやっている」


「岩下? しょうが臭い名前! ププププ……」


「いけないのか!? 岩下の新生姜、美味しいだろ!? 食べたことないけど!」


「ププ……。とりあえず、友達になりましょう。あたしのことはユキリンって呼んでください」


「ユキリンか……。よろしくな。俺のことは『ガンテツ』って呼んでくれ」


「ガンテツって……。確かに体は大きいけど、贅肉だらけでふにょふにょしてるのに? ププププ!」


「いちいち失礼な子だな!」




 なんだかんだで鉄男とユキリンは友達になった。性別も年代もまったく違うが、共通の趣味をもつ友達だ。 


 これが最悪の出会いになるとは、この時は二人とも予想だにしていなかった。




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