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7.迷い(前)

美保はおれの横に少し距離をおいて座った。おれはテレビから目

を離さずに言った。

「すっきりしたか?」

「うん」

 美保は素直に頷いた。おれは立ち上がり、冷蔵庫の扉を開けた。

「ビールでも飲むか?」

「飲みたい」

 おれはビールを美保に放り投げた。美保は慌ててキャッチした。

「もう。なにも投げなくたって・・・」

 美保は少し怒ったような顔して言った。


「美保の怒った顔もなかなかいいぜ」

 おれはそう言いながら、ビールのタブを開け美保の横に再び座っ

た。

「からかわないで」

 おれと美保はビールをひとくち飲んだ。日本酒ばかり飲んでいた

ので、いつものようなのどごしはなかったが、胃の中にしみわたっ

ていくのはわかった。

「ところで、今夜は何の用なんだ?」

 おれは美保に尋ねた。


「用がないと来ちゃいけないの?」

 美保はそう言うと、おれに瞳を投げかけた。

「ああ。そうだ。剛に後めたい気がする。さっきも電話があった」

「剛から?」

「ああ。心配してたぞ。携帯にしても、全然でないしって」

「そう・・・ほんとはわざとでなかったの」

「またそれか」


 おれはビールを一気に半分ほど飲んだ。そして大きくため息をつ

いた。テレビの画面は零時を告げていた。。

「佳奈は・・・どうして・・・死んじゃったの?」

 美保はひとりごとのようにポツリと言った。

「何回同じこと聞けばいいんだよ。そのことを考えても答えはでる

わけないだろう!」

 おれは少しイライラしながら吐き捨てるように言った。


「ゴメン。なんか私ってさっきからテルを怒らせてばかりね。でも

佳奈にいてほしい・・・佳奈がいれば私はもっと・・・」

「佳奈がいればなんだよ?私はこんなに男遊びをすることもなかっ

たってか?剛ともうまくやっていけたか?だいたいおまえは剛のこ

とをどう思ってんだよ!」

「わからない・・・わからないの。ほんとに剛のことが好きなのか

どうかが」


 おれはこの頃、美保がわからなくなってきていた。佳奈がいる頃

はあんなに剛と楽しそうに笑いあっていたのに・・・。いったい美

保に何があったのか?なぜ、こうも男をとっかえ、ひっかえするよ

うにつきあうのか。剛という恋人がいながら。


 剛も剛だ。美保が他の男とつきあっているのを薄々感じていなが

ら、美保には何も言おうとしないようだ。もしかしたら、佳奈が美

保と剛の橋渡しのようなものだったのだろうか。それじゃまるで、

佳奈のために美保は剛とつきあっていたように思える。おれのとこ

ろへ月にニ、三度来るのも、結局おれに佳奈の面影のようなものが

あるからか?


 おれはそこまで考えると。ビールを飲みほし、二本目のビールを

冷蔵庫から取ってきた。タブを開け、ひとくち飲んだ。アルコール

が体に再び襲ってくる。

「今日はペースが早いんじゃない?」

 美保はビールの缶を指でなぞりながら言った。さっきから美保は

ビールをひとくちしか飲んでいない。


「今日は宴会だったんだ。最初から日本酒ばかりだったんで、今頃

になってのどが乾いてきたみたいだ」

「それでビール?」

「ああ」

「宴会って何かいいことでもあったの?」

「新入社員の歓迎会だよ。女の子がひとり入ってきた」


 ほんとは仕事をとれたことを言いたかったが、この雰囲気では言

えそうもなかった。

「その子可愛いの?」

「え?」

「新入社員の子よ」

「まあまあじゃないかな」

「ふーん。テル、また怒らせるかもしれないけど、聞いていい?」

 美保はおれの顔を覗き込むようにして、聞いた。


「怒るってわかっているなら聞くな」

「怒るとは言ってないわよ。怒るかもしれないって言ったの」

「屁理屈だなぁ。いったい、何だよ」

「テルは佳奈のことを忘れようと思って、他の女性とつきあおうと

思ったことない?」

「ない」

 おれはキッパリ言った。


「そういう自分をいやになったことない?」

「それはあるさ。佳奈のことを忘れようとして、恋人をつくろうと

思ったことはないが、仕事とか趣味に熱中して忘れようと思ったこ

とはある」

「でも、ダメだった?」

「ああ。でも無理に忘れることはないさ。今日、会社の先輩から言

われたよ。そういうことを無理に忘れることはない。忘れられる時

は必ずくるとね」

「それを待ってるわけ?」

 美保はまだ食い下がって聞いてきた。

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