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34.バトル

 再びピットロードの前を通過する時、ボードを見る。トップと

の差は五秒弱。かなり厳しい状況だ。残り七周。トップに追いつ

くためには一周一秒の割合で縮めなければならない。


ここまで走ってきてもバイパーはいなかった。ということは、

トップ争いしているのだろう。そして争っているのはNSX、

先輩のマシンだ。この二台に追いついてバトルするのはかなり

の勇気がいる。

だが追いつかなけれ ばならない。ここで三位に甘んじていては、

ここまで走ってきた意味がない。


 おれは第二コーナーのヘアピンをクリアするとペースをあげた。

タイヤがもつかどうかわからない。だが、多少無理してでもパイ

パーに追いつくため、タイムを一周ごとに、一秒縮めるつもりだ。


各コーナーで縁石に乗り上げてぎりぎりの走りをした。一周走

るごとにタイヤのグリップが落ちていく。走っても走ってもバイ

パーとNSXは見えない。


こんな無理をして走っていると、どうしてもミスが出る、第五

コーナーでは縁石に乗り上げ、コースアウトしそうになった。

 心臓が飛び出しそうだ。


『これ以上はタイヤの限界だ。もうここまでか』

 そう思い、トンネルに入った。その時だ。ブルーとブルーにス

トライプのマシンが見えた。


『見えた!よし、行くぞ。待ってろよ、バイパー。さっきのお返

しをしてやるからな』

 おれは再び臨戦態勢に入った。二台のマシンが着実に近づいて

いる。かなりのペースオーバーとはわかっていたが、もうここま

できたらやめることはできなかった。


 バイパーとNSXは激しいバトルをしていた。前がバイパーで

後ろがNSXだ。NSXがさかんにバイパーのインを突こうとす

るが、ブロックしていてうまくつけない。


 それでもNSXは各コーナーでしかける。インを突くふりをし

てアウトから抜こうとしたり、逆のことをしたりする。抜く方も

防ぐ方も必死だ。二台はバトルしながら走っていたので、おれは

次第に追いつくことができた。


 だが、そこからが行けない。とても二台の間に入ることができ

ない。二台はすさまじい気迫で走っている。タイヤが横滑りしそ

うになるのもかまわず必死で前へ前へと行こうとしている。


『だめだ。今飛びこんで行ったら弾きとばされそうだ』

 おれは二台の後ろを一定の距離をおいて走った。周回はどんど

ん減っていく。残り四周。二台はまだ競り合っている。あと一周

この状況が続けば、バイパーに追いつくことは不可能だろう。


 第一コーナーを抜け、第二コーナーに二台はさしかかった。そ

の時、バイパーのインが、がら空きになった。ここぞとばかりN

SXはインを突いた。バイパーが慌ててブロックにかかる。

『遅すぎる。このままではクラッシュする』

 おれはとっさに思った。おれの予感は当たった。NSXがイン

に入った時、バイパーはNSXの側面に当たる寸前まで接近した。

 NSXはそれを避けようとしさらにインに向ける。縁石にタイ

ヤが、かかりボディが揺れる。それでもバイパーは近づこうとす

る。


 ここまでやられればNSXはなすすべがない。たまらずNSX

はブレーキングする。だがここでブレーキングするのはタブー。

 NSXは砂煙を上げながらコースアウトした。


『先輩!あの野郎、無理を承知でやりやがったな。おれだけでは

なく先輩までも』

 先輩のことが心配だったが、それよりも由樹に対する怒りがあ

った。


 あの場面ではインを素直に譲るのがルールだ。それを無理に抜

かせまいとした。やはり由樹は自分が勝てばルールなど、どうで

もいいとしか思っていない。それが間違いだと認めさせなければ

ならない。そのためには敗北を味わわせることだ。


 おれはバイパーのリヤを睨みつけるようにして走った。だがバ

イパーにはなかなか追いつけない。コーナーで追いつき、ストレ

ートで離される。その繰り返しだ。コーナーで追いついて、イン

を突こうとしても先輩のコースアウトシーンを思い出し、飛び込

めない。


 残り二周。このままでは負ける。二位になってもクラッシュし

て負けても、バイパーに負けたことに変わりはない。おれは勝負

する時がきたと思った。クラッシュ覚悟でインをつくしかない。


 ラストラップの第二コーナーでインを突いて抜く。そした立ち

上がりの加速で第五コーナーまでトップを保つ。そうすれば勝つ

可能性があるかもしれない。


 おれはそう思うと、バイパーに少しでも焦りを感じさせるため

にプレッシャーをかけ始めた。だがバイパーはストレートで一気

に加速する。こうなればラストラップの第二コーナーで、ブレー

キングを最大限遅らせるしかない。


 最終コーナーでバイパーに近づいた。アウト・イン・アウトで

コーナーをクリアする・バイパーのリヤは目前だ。だがバイパー

はインをブロックする。まだ我慢だ。


 コーナーを立ち上がるとバイパーから一気に離される。そして

メインスタンド前。ストレートを全開で駆け抜ける。タイヤも限

界、エンジンも悲鳴をあげそうだ。


 第一コーナーでステアリングを取られそうになる。だが、おれ

はアクセルを緩めない。まだバイパーとの距離は縮まらない。そ

して第二コーナーの少し手前でバイパーのリヤランプが点灯した。



 ブレーキングだ。バイパーとの距離が一気に縮まる。おれもブ

レーキに足をかけたいが、ここは勇気の見せ所だ。おれはアクセ

ルから足を離さずコーナーに近づく。恐怖感が体を押し潰そうと

する。


 そしてブレーキング。タイヤが悲鳴を上げる。リヤが左を向き、

マシンがスピンしそうになる。アクセルをオン・オフしながらマ

シンを何とか立ち直らせる。バイパーが真横にいた。


 案の定、バイパーはおれをブロックにかかった。だが今度は逃

げるつもりはない。バイパーの方にわざとマシンを向ける。ほと

んど接触しそうだ。当たる!と思った瞬間、バイパーが後ろに下

がった。


 タイヤの激しい悲鳴が聞こえた。バイパーがバランスを崩した

のだ。おれは一気に加速した。成功だ。だが今のでタイヤはもう

限界だろう。第三、四コーナーを全開で駆け抜け、第五コーナー

に差しかかる。


 ふつうならクリアできるスピードなのに思わずスピンしそうに

なったが、何とかクリア。バイパーの影はまだ見えない。湖の横

を駆け抜け、コーナーを慎重にクリアする。


 そしてトンネルを抜け、橋の上を駆け抜ける。ここは全開で走

るのだが、今のタイヤの状況では無理だ。八十パーセントの力で

最後のトンネルに入る。そしてトンネル内のコーナーに差し掛か

った時、ルームミラーにマシンが映った。バイパーだ。すぐそば

まで来ていた。

 

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