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轍のゆくえ  作者: ルイン・リーカ
第二章
28/29

狐と

 妖刀とは、名の通り普通の刀ではない。妖が化けて打った刀だとか、呪われているだとか、そういう噂の付いた刀全般をいう。実際に付喪神だったり、妖怪が刀に化けて居たり、祟っていたり。一部偽物があるが、本物も多い。妖刀はもれなく不思議な力を持つと言われており、なんでも主に絶大なる力を与えてくれるそうだ。

 そういったモノを欲しがるヤツは残念ながら多い。理由は色々あるが、皆が同じように妖刀に力を求める。支配者になれるほどの力を、と。しかし、妖刀は誰にでも力を与えるわけではない。妖刀が認めた相手であり、与えたモノに対する対価を払える者。その中で気に入ったヤツのみに力を与え、それ以外は呪い殺すらしい。大層恐ろしい。


「残念ながら、お前は後者だな。呪われているよ、力を求め死ぬ呪いだ」


虚翠はゆっくりと体を起こす。旅蛍はゆっくりとこちらに向き、笑いかけた。奇妙な笑いー狂気に満ちたもうどうにもなりはしない笑い。


「それがどうかしましたか?私は妖刀に力を求めた。そして妖刀は呪いと力をくれました。

ですが妖刀は私をすぐに殺さなかった、なぜならそんな力など残っていなかったから」

「呪いってのはすぐに効かねぇようにできてんだよ。相手の妖気だとか生気だとか、吸えるものを吸い付くしてから殺すんだ。ようするに寄生虫だな」

「ふむ、寄生虫。良い例えですね。しかしそれこそ()()()()()この妖刀では私を殺せない」


旅蛍はまだ正気であり、妖刀を操れる力もあると主張する。しかしその表情は苦しさを訴えるものであり、細い腕や身体では太刀を到底扱えるものではない。感覚麻痺の症状が出ているようだ。無意識に操られているのだろう。自分の意思でしていると思わせて、徐々に呪いに浸していく。もし気付けなければ、完全に呪われてしまうだろう。

 いくら指摘しようとも、旅蛍は聞く耳を持たなかった。むしろ否定ばかりで、気分が興奮状態になり始め、妖刀をより使わせてしまう結果となってしまった。さらに蛍の妖が得意とする光の跳弾まで使ってきたのだから、厄介そのものである。


「呪われるから、使うなって言ってんだろ!」

「使わせたくないなら、神様が殺られてくれればいいんですよ」


飛んできた太刀を避け、虚翠は旅蛍を斬り付ける。肩をかすったが、背中を鋭い痛みが襲い距離を取った。旅蛍の手には刀身に血の付い太刀が収まっている。本当に犬のようの刀である。

 この狭い部屋では立ち回りが限られており、こちらの部が悪い。だが、外に出たところで相手の長いリーチが活かされるだけである。だからと、悩んでいたのだがそうも言っていられなかった。

 狐火を呼び出し、光の弾を焼き尽くす。そしてそれを旅蛍に向けて放った。


「急に遠距離勝負に持ち込むんですね。どうしました、もう打つ手はありませんか?」

「さてどうだろうな」


旅蛍は身体を軽く反らして避ける。そして光の弾を一気に放ち、虚翠の視界一面は目映い光に覆い尽くされた。 虚翠が右の掌を弾に向ける。すると床から炎が吹き出し、光を全て燃やした。弾を全て一層し終えると、虚翠は耳を澄ませ刀を構えた。来る。

 一瞬揺らいだ炎の隙間を通って、巨大な刀身が顔を出す。刀を縦にして防ぐが勢いを殺せず、虚翠は壁を突き破って外に飛び出した。幸い、大した飛距離はなくすぐに地面に転がり落ちた。


「化け物かよ。あんな身体で…」


身体をゆっくり起こすと、鼻からポタリと血が滴り落ちる。強打したらしい。乱暴に袖で拭うと、物音がして勘で身を捩った。先程頭があった場所に刀が刺さっている。冷や汗が流れた。


「神ってこんなに弱いんですね。知りませんでした」

「妖刀を所持した妖がこんなに強かったとはな。驚きだよ」

「妖刀だけの力でしょうか。私の力だけでも、神様には勝てる気がしてきましたよ」


虚翠は立ち上がると、ゆっくりと退きながら話す。辺りは木々が生い茂っており、太刀は扱いずらい。こちらに地の利はある。だが建物を斬るほどの鋭利さを持っているのだから、大木といえどただの樹木。こんにゃくのようにスパッと斬られるだろう。だから、これはほんの時間稼ぎ。体力切れを待つ。

 旅蛍が太刀を地面から抜いたところで、背を向けて虚翠は逃げ出した。耳を澄ませて空気の流れを聞き取りながら、襲い来る斬撃を避ける。山育ちがこんなところで活かされるとは思いもしなかった。


 屋敷から十分な距離を取ると、適当な広さの場所で立ち止まる。後ろから足音が聞こえるが、少し上がる息を整えた。耳障りな音も消えて、気分が少し楽になった気がした。

 ゆっくりと後ろを振り向くと、肩で息をした旅蛍が太刀を杖代わりにして立っていた。足が震え、顔色も悪い。妖刀に生気を吸い取られ過ぎたのだ。風前の灯火。いつ息絶えても可笑しくはない。


「もうやめろ。どう見ても妖刀にお前が負けている。これ以上は死ぬぞ」

「自分を殺しに来ている相手の心配ですか。…神って雑魚で馬鹿なんですね。自分の心配をしたらどうですか」


震える手で旅蛍は太刀を構えた。満身創痍だが、その瞳だけはまっすぐと虚翠を捉えて放さない。戦意喪失していた虚翠であったが、いつの間にか情が湧いた。一体どこで沸いたのか、自身ですら皆目見当もつかない。渋々根負けした虚翠は刀を構える。その刀身はボロボロで、歯零れが凄まじい。もはや鈍器のような扱いしかできないだろう。

 ふと暴風が吹き荒れ、木々が、森全体がざわめいた。轟轟と風が泣き、辺りもそれにつられて泣き出す。試合終了の合図だ。

 駆け出してくる旅蛍に最初ほどの素早さはない。旅蛍が虚翠に触れるまでの瞬きをする程の時間、それは虚翠には十分過ぎた。


「チェックメイト。お前の負けだ」


鈴の音が辺りに鳴り響き、辺りに霧が発生する。そして霧から影が数本伸びてきて、旅蛍を囲む。鼓のような音がすると、忽ち足元に生えていた植物が旅蛍の身動きを封じる。


「この程度の拘束、すぐに解けますよ」


暴れる旅蛍の目から真っ赤な滴が流れ落ちた。身体がもう持たない。これ以上妖刀に力を吸わせるわけにはいかなくなった。


「止めは俺じゃねぇ」


虚翠は顔を右上、屋敷の方に向けた。否、正確には屋敷ではない。虚翠が飛び出した際にできた穴。その穴からこちらを射止めんとする花見月_に。


「残念ながら、花見月は加減ができねぇの」


クスクスと虚翠は笑い、刀を捨てた。地面とぶつかる瞬間、ガラスが割れたような悲鳴があがった。


「神に慈悲を乞いな。救うかは神次第…だが」


旅蛍はこちらに手を伸ばした。拘束が解かれ、虚翠の腕を掴もうとする。

 人差し指が触れるそのとき、辺りに輝きが満ちた。


 










「翠ちゃーん!大丈夫だった?」


屋敷から隠成が飛行してくる。虚翠は地面に仰向けに倒れ伏しながら、手を挙げた。身体が痛い。手加減してやるのに気を遣いすぎて、怪我を負いすぎてしまった。旅蛍を殺さないが、動けないほどの重傷を負わせる...だけの予定だったのだが、妖刀の登場で状況が一変した。妖刀に対処しながら、旅蛍の無力化を測れるのが一番だったが、そう簡単にもいかなかった。結果封印することで手を打った。


「本当に疲れた」

「そうだねぇ。重症だし、診てあげるからね。まあ、あちらさんの方が重症だから、後になっちゃうけんど」


隠成は虚翠の先にいる焦げたモノをみる。炭のように見えるが、旅蛍である。旅蛍は花見月の射撃によって、封印ついでに黒焦げにされていた。目の前で見ていたが、迫力が素晴らしかった。恐らく花見月が出力調整をミスったのだろう。普通ここまで黒くならない。失敗の中の失敗、大失敗をしでかしたらしい。ちなみに黒焦げだが、ちゃんと清めれば元に戻る。

 気絶した旅蛍を隠成は担いだ。少し持ち上げただけでも、炭の服が崩れる。慌てて自分の羽織を着せていた。


「翠ちゃんは自力で何とかなりそう?」

「ああ。大丈夫だ。何とかできる」


虚翠は身体に鞭打ち、ゆっくりと立ち上がった。血が滴り落ちる。そして隠成に合わせて屋敷に空いた穴まで一緒に空を飛んだ。傷に空気が触れると鈍い痛みが襲い掛かってきて、その度に虚翠は顔をゆがめることになった。


 穴までたどり着くと、花見月と女性が並んで待っていた。隠成が旅蛍を抱いていることに気が付くと、女性が真っ先に飛んでいく。そして涙をほろほろと流した。


「あぁ、貴方。こんな姿になってしまって…」


膝から崩れ落ちてワンワンと泣き出し、疲れ果てている体が黙らせろと訴えてくる。正直賛同したいところではあるが、相手は人間と思われる。下手に刺激して恨まれるのはごめんだし、女性に泣かれた際の対処は得意ではない。花見月に顎で指示を出すと、花見月はこちらを一睨みして女性を宥める。花見月が悪戦苦闘しているのを眺めながら、隠成が口を開いた。


「彼女は恋田 稔(こいだ みのる)さん。見ての通り、人間やね。旅蛍(坊主)が攫ってきた人間、恋田さんを妹にしてたみたいよ」

「…種族の壁は気にしないタイプか」


種族の壁。人間と妖怪であれば、寿命に大きな差がうまれれてくる。人間が生きるのは長くて百年、一方の妖怪は何百年、もっと長生きすることもある。その間に愛する別の相手を見つけられた事例は少ない。一度した恋をずっと引きずって、土に還るまでずっとも居続けてしまう。

 さらに隠成は言葉を付け足した。


「妹...やったんやけど、恋してしまったみたいなんよ。それでプロポーズされていたとか」

「そこまで進んでたのか」


世の中は複雑怪奇。本当に複雑であった。



 思い返すこと数年前。恋田は高校生であった。成績はトップクラスであり、交友関係も順調。誰もが認める優等生であったが、彼女には人には相談できない悩みがあった。両親の夫婦仲が悪く、毎日喧嘩が続いていたのである。怒鳴るのではなく、両親は暴力で自分を正当化しようとした。思う通りにいかず苛立ちが募る。その怒りの矛先が彼女に向いたことは何も可笑しなことは無かった。

 恋田の服の下には傷跡があった。両親に付けられたものである。恋田は両親に仲良く過ごしてもらいたく思っており、怪我をさせないために反抗はしなかった。その代わりに精神が削れ、やがてふさぎ込んでしまうようになったのである。

 そんなある日、恋田は誘拐された。人ならざる者たちに。その頂点に立つ妖_旅蛍に妹になるように脅され、そして要求を飲んだらしい。種族の違いには驚いたものの、次第に心が絆されていった。


と、いうことらしい。


「そんなことはとりあえずどうでもいい。先に聞きたいのは、お前が敵かどうかであって、返事次第では...どうなるか分かっているな」


もし敵意があるのなら、この状況での反撃が一番恐ろしい。つぶしていける可能性であれば、ドンドン対処していかなければならない。その人物のバックグラウンドはさておき。冷たい言い方になった自覚はあるが、虚翠は狐火を出せるように構えた。

 一方の恋田は喉を鳴らした。目の前の神らしき人物は、恋田のことを鋭く睨みつけている。勿論抵抗するつもりは無かったが、恐怖でとんでもない過ちをしてしまったらどうしようかと不安に襲われていた。震える手先をぎゅっと握りしめ、恋田はできるだけ鋭く睨み返した。


「…敵ではありません。貴方たちが旅蛍さんに手出しをされない限りは」

「ほう?そちらから手を出してきたというのに、よく言うじゃないか。こちらの花見月を妹の嫁にと」

「それは…その…私も認めたくなかったのです」


恋田はポツリと胸の内に秘めておくつもりだったことを話し始めた。プロポーズをしてきた癖して、急に態度を変え始めたこと。妹という扱いから、求婚され、そして幽閉されまるで道具のように接されるようになってしまったこと。それが辛く、悲しかったこと。話し始めたら止まらず、恋田は全てを漏らしそしてまた泣いた。

 近くで大声で泣かれること程嫌なことは無いのだが、心当たりがあり口にしないのも良心が痛む。やめておけと留めようとする己を強く感じながら、虚翠はため息を漏らした。


「その性格の変化は、恐らく妖刀に憑依されたんだろう。これも憶測だが、あの妖刀には神が所持者を呪い殺す呪いがかけられていたんだと思う」


実際に戦いの最中に、旅蛍は目から血を流したり、自身の力以上のバカ力を発揮したりしていた。この憶測に間違いはないと思っている。


「この屋敷にも付喪神がいた形跡があった。それほど良い環境だったと考えられるが、良い気が溜まっているところにはその分嫌な気も溜まりやすいもんだ。一度染みついたら剥がれねぇよ」


旅蛍はそうして妖刀を身に付ける度に、自我を失っていった。そして最後には妖刀が旅蛍を乗っ取り、あとは死ぬ運命だった。捨て台詞のように虚翠は言い放ち、雰囲気は最低だった。

 沈み込んだ空気の中、パンと大きな拍手(かしわで)が鳴り響いた。瞬間、辺りの空気が少し軽くなる。


「まぁ、無事だったわけだしね。一旦休憩ってことにしない?重傷者を抱えるのも限界で」


そう言って隠成は忘れかけていた黒焦げの旅蛍を床に寝かせる。花見月が寄せ集めの包帯や消毒液を隠成に受け渡し、花見月自身は虚翠に駆け寄った。それを見ていた恋田は、隠成のサポートにつく。


「ほら、とりあえず上脱げ」

「お、いきなりセクハラか」


花見月に背中を強めに叩かれ、虚翠は酷い痛みに襲われた。背中には大きな切り傷があるというのに手加減が無かった。全くジョークが通じない。

 とにかく消毒は痛んだ。逃げ出したかったが、逃げ出せば旅蛍のように撃ち落とすと脅され大人しくせざるを得なかった。なにがあったのか不明だが、何とも逞しくなったものだ。


「痛くないか」

「痛くねぇ訳ねぇだろ。めちゃくちゃ痛いからな、代わってほしいぐらいだ」


言い返されるつもりで言ったが、花見月のリアクションは想像に反していた。今にも泣きそうな瞳をしている。


「急にどうした。腹でも下したか」

「…お前のそういうところ、やっぱりどうかと思うぞ」


また花見月は背中を叩いた。表情も少し明るくなっている、    。

 そうだ、それでいい。そう思う。詰まらない顔をされても、困るのはこっちだから。迷惑をかけたと思うのなら、反省してまた一歩踏み出せばいい。


「おい、バカ狐...?おい?」


少し気が緩んだ瞬間これだから困る。一気に視界がブラックアウトして、意識が彼方に消えた。


ルイン・リーカと申します。

轍のゆくえを閲覧いただきありがとうございます。当作品はこの話で前期終了です。宜しければ、レビューやブックマークなどお願いいたします。

改めて、閲覧ありがとうございました。またお会いできることたのしみにしております。

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