狐と不仲
ぼんやりと天井を見た。木目が人の顔に見える。あれは犬のよう。あっちは猫。
さっきまで何をしていたのか思い出せない。確か中々骨のあるヤツと戦っていて、途中から意識が保てなくなった。そして気がついたら現在に至る。空白の時間何があったのだろうか。微かな記憶で何か言われたような気がした。
虚翠は身体を起こす。身体にかけられていたと思われる羽織がずり落ちた。翡翠色に上品な模様が刺繍されている見覚えしかない羽織。それを着こなす姿が頭を過った。顔が自然と歪む。
考え事をしていれば、視界の端にひょっこりと頭が生えてくる。
「おはよう。気分はどう?一応、安静にしておいて…って言いたいんだけど、状況が状況だからこんな感じになってしまった。ごめんネ」
「…反省も後悔もしてなさそうな態度だな。相変わらずで安心したよ」
羽織を隠成に(ぶん投げ)返す。隠成は風を上手く誘導して、自分の肩に掛けた。表情が余裕そうでまた一層腹が立つ。
少しの苛立ちを感じながら、虚翠はズキズキと痛む頭を抱えた。
「どうしてこっちにいるんだ。俺を置いて逃げたんじゃなかったのか?」
「わ、逃げるなんて人聞きの悪い。翠ちゃんを置いて逃げると思ってたの」
隠成はわざとらしくリアクションをし、虚翠が眉間にシワを寄せた。こっちは気分が悪いというのに、なぜ隠成はこんなにも元気なんだか。顔をしかめられたのが面白いのか、隠成は楽しそうに笑う。
「ちゃんとぜーんぶ片付けてきたよ。それで翠ちゃんを探していたら、ドデカイ音がして驚いた。どうせ君だろうから、こうしてきたというわけ」
「俺が聞きたいのはそういうことじゃない」
ため息混じりに、面倒ごとは嫌いだろと聞き返した。隠成は困ったように微笑む。
隠成は誰に対しても友好的に話しかけるが、その反面あまり人付き合いが得意でない。むしろ人間、神が苦手。手先が器用だが、それは長年の積み重ねによるもの。隠成自身は細かいことは嫌いで、何年も生きている内に苦労をして身体が覚えてしまった。その積み重ねによって、現在の隠成は出来上がっている。
そんな隠成にとって、虚翠は厄介な存在なはずである。今回も恐らく面倒をかけただろう。
「そんな顔をしなさんな。自分のしたいようにしてるだけやよ」
隠成は鈴のような声で笑った。
「確かに嫌いだけど、嫌いだからってしないわけじゃないんよ。神として存在してたら、いつか面倒に対処する必要があるのさ」
「そういうもんか」
「そういうもんよ。うん、そういうもん」
隠成は虚翠に手を差し出す。差し出された手をじっと見つめる虚翠であったが、何か晴れない顔をしながらもその手を握る。
「今回は世話になった」
「え、翠ちゃんが素直になるなんて……信じられないよ!」
低い声で威嚇すると、隠成が冗談だってと言い訳をする。この距離、この関係。落ち着くところに落ち着いていた。




