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轍のゆくえ  作者: ルイン・リーカ
第二章
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狐と反撃の一歩


「んで、言い訳は?聞いてやるから話してみろよ」


虚翠が殺気交りに隠成を脅す。隠成はから笑いしか出来ない。近くにいるだけでも威圧感がひしひしと伝わってくる。


「お、落ち着きなって。まあ…良くはないけど、食い止めようとはしてくれた訳だし」

「実際食い止められてねぇんだよ。つまり、失敗してるんだよ」


虚翠がここまで怒っている理由。言わずもがな花見月の誘拐についてである。虚翠は喧嘩の後でもあったため、下手に花見月を刺激するのは良くないと判断し、見張りを隠成に頼んだ。一応何かあったとき、助けには入れと。それにもかかわらず、隠成は見す見す花見月の誘拐を許してしまった。相手は妖。勝てない相手ではなかったはずである。

 虚翠は、頭の中では完全なる八つ当たりだと理解していた。しかし、怒りが収まらなかったのだ。花見月が旅蛍を連れて出ていったとき、どうして忠告しなかったのか、と。あのとき喧嘩したばかりだと理由をつけなければ、今回の誘拐は起きなかったのに。後の祭りといえばそうなのだが、それでも生き物。人生には後悔が付き物である。


「なんで厄介なことにばっか首を突っ込むんだよ。いい加減学べよ花見月…妖怪、はたまた妖なんてロクなヤツいないってのに」


虚翠は深呼吸をし気分を落ち着ける。まだモンモンと怒りが湧いてくるが、それを対処するのは後でも出来る。とりあえず、隠成にもう一度向き合った。


「花見月は何処に連れていかれた?お前が調べてないはず無いし、知ってるだろ」


虚翠が威圧するように言えば、隠成は自信ありげに首を縦に振る。


「勿論。ちゃんと調べとるよ。風の動きを見ればあっという間よ」


片目でパチッとウインクを決め、隠成は両手を伸ばし唸り声を上げる。その瞬間。風が揺らいだ。突然のことに驚いたエセ猫が虚翠の後ろに引っ込んむ。虚翠はエセ猫をチラリと見たが、何も言わず再び隠成に目を向けた。

 隠成が息を吐く度に、木が騒めく。鳥の鳴き声、子供の笑い声、何かの物音が聞こえる。洗濯物が靡く音、窓を叩く音。ありとあらゆる音が辺りから聞こえてきた。


「な、なんだい、これ」

「相変わらず気に入らねぇな。うるせぇ…」


エセ猫が向くと、虚翠は眉間に皺を寄せ耳を塞いでいた。さらに尻尾の毛が逆立っているのが目に付く。嫌な音らしい。エセ猫にとっても嫌な音ではあるが、聞き慣れている音ばかりなのでそこまで嫌悪感はない。虚翠はあまり好まないらしいが、話の流れから恐らくこの音が隠成の力のようである。

 暫くして、音が止んだ。隠成は唸るのをやめて、眉間に皺を寄せる虚翠を見て笑う。そしてそれに怒る虚翠が…とお決まりの喧嘩である。もうホトホトこの展開に飽きてきているのが最近のエセ猫である。


「もうさ…アンタらの仲の良さはもう思い知ったから、とりあえず何が分かったか教えてくれないかい」

「ああ、そうだった。すっかり忘れるところだったよ。ありがとう、エセさん」


エセじゃないんだけどというエセ猫の突っ込みはさておき、コホンと一咳してから隠成は粛々と話し始める。


「彼らは近場の森にいる。古い館のような場所だったね、持ち主は居ないみたいだったよ。館はボロボロで凄い有り様だった。あわよくば中に入りたかったんだけど、強いのがいるみたいで入れそうになかった。

 多分あの旅蛍くん一団が所狭しといると思われる」

「…大丈夫なのかい?聞いた限りは厄介そうだけど。

しかもあの妖…光って飛び回るのは求愛のアピールだって聞いたんだけど本当なのかい」


喧嘩をしていたはずの虚翠と隠成は、両者揃って首を縦に振る。

 あの妖は蛍から派生したものである。先程の通り、求愛のアピールとして自らを発光させる。それがこの前の空が光る現象。寿命は妖の中でも短い方である。そのため、子孫を残そうと人生の殆どを求愛に使うらしい。


「そんな妖がどうして花見月(カレ)を?食うのかい?」

「そんな訳ないだろ。婿入りだとか抜かしていたなら、”婿にでも”みたいな感じだろう」

「人間をかい?」

「まあ、滅多にないが無くもない話だな。誰でも構わないんじゃないか?」


妖と人間の結婚。それは珍しい事ではない。二種類の生き物が混じり合った結果生まれるものを半妖という。半妖の容姿は人間と変わらない。妖怪としての能力を受け継ぐかは、運次第なのだとか。

 どこのだれかは存じ上げないが、花見月と婚姻を結んだところで何か利益があるとは思えない。あるとするならば、子孫を残すため。きっと、それだけで十分なのだろう。


「…分かっちゃいたけど、花見月は自分から変なことに頭を突っ込んだ…ってことだね」

「その通りだ」


虚翠は面倒くさそうに毛先を弄っている。その後ろで微笑んだまま虚翠を見る隠成が、口角を上げているのが気味が悪い。エセ猫はなにか寒気がする気がした。きっと知らないふりをした方が良いのだろう。

 腰が重そうにする虚翠を隠成がウザ絡み始めた。


「自業自得だし、仕方ないよねー。翠ちゃん、遊ぼうよ」

「な、なに言ってんだい!」

「だって、今回は自業自得としか言えないじゃん。妖を助けようとしてその妖に拐われましたー。だから助けてくださいって?虫のいい話だよ」

「そうだけど…花見月はあの妖については知らなかった訳だし」


エセ猫は食い下がるも、隠成に言い負かされてしまう。


「知らない妖だから?それって知らないなら、なおさら警戒するものじゃない。なのに、彼はしなかった」

「そ、それはそうだけど。それが花見月のいいところじゃないかい。優しい子なんだよ」

「優しい。…無警戒なだけじゃないん?」


鋭いところを突いてくる。エセ猫は花見月のことを助けてやりたい。しかしたかが一匹でいったところで、捕まるだけである。そのために助力が得たかった。それも無理そうだ。


「…分かったよ」


エセ猫は一息つく。もう諦めた。これ以上の説得は無駄だろう。


「私だけで行ってくる。それで花見月を助けてくるよ」

「一大決心だ。でも、一人で十分なのかい?」


今度はエセ猫が眉間に皺を寄せる。花見月を助けに行くなと言ったり、一人で行くと言ったら大丈夫かと心配してくる。隠成のしたいことが分からない。

 戸惑うが、それでも行くという意思が揺らぐことはない。


「アンタたちが来ないってなら、一人っていうだけさ。一人でも私は行く」

「良い心構えだね。そんなら、お供が必要じゃない?」


ほらと言って、昔いた御仁のお供の名前を挙げていく。


「昔も今もお供がいて嬉しいことはないでしょ。なら、コイツを連れていくといいよ、意外と役に立つ」 


そう言って、隠成は虚翠を指差す。指差された虚翠は面倒くさそうな顔をしていた。


「その子行かないって行ってなかったかい?」

「それは花見月くんの救出という目的では、という話だよ。エセ猫(キミ)の手助けでは行くだろう?」


エセ猫は虚翠を見つめる。虚翠は否定しなかった。これはそう言うことなのだろうか。


「誰も行くとは行ってねぇけどな」


何か気に触ったらしく、不機嫌そうに言った。


「じゃあ、助けに行かないん?自業自得で放って置く?」

「…分かって聞いてんだろ。そんなことする訳ねぇ。俺の雑用してくれるヤツが居なきゃ困るだろ」


見捨てることができる程、虚翠は器用ではない。

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