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轍のゆくえ  作者: ルイン・リーカ
第二章
19/29

狐と願い/狐と子妖



眠れ、眠れ、眠れ、眠れ

意識を流れにまかせて


眠れ、眠れ、眠れ、眠れ

もう二度と目が覚めないように、全てを忘れるように


眠れ、眠れ、眠れ、眠れ

目が覚めれば、全てが終わっているように


眠れ、眠れ、眠れ、眠れ

私のことなど忘れ、俺のことを












覚えていてくれ





~狐と子妖~


人々の間で囁かれている噂にすぎない話。


「見える、見えるよ…あんさん、取り憑かれてるね」


ある神社には人語を話せるだけでなく、妖怪を見ることができる、猫がいる。


「え、マジで!」

「怖い怖い。なに憑いてんの!?」


そんなデマのような猫に出会えれば、良いことが訪れるとか。なんでもその猫に任せれば、その妖怪を追い払ってくれる。さらには、幸運が訪れるように祈祷してくれる。


「そんなあんさんらに!お得な情報が!

なんと…500円追加でこの神社のお祓いを受けれちゃう!どうだい?」


グイグイと客に顔を寄せる猫もとい、エセ猫。客たちは顔を見合わせどうするか相談しあっている。それもそのはずである。自分達には妖怪が見えない。見えないものを信じることは難しい。

 とはいえども若者の好奇心とは抑え難たい。お祓いは胡散臭いが、受けてみたい。


「じゃ、じゃあ…お願いするか」

「毎度あり!」


妖怪を見てやった代金としての500円を受け取って、エセ猫は境内の中を案内する。途中で看板に従うように言って、客たちを笑顔で見送った。そんなエセ猫の頭を鈍い痛みが襲う。


「ってて...何すんだい!」

「それはこっちの台詞!いつからそんな胡散臭い商売始めたんだ!」


正体は、箒を片手に持った花見月だった。花見月は箒の柄の先でもう一度エセ猫を叩く。


「胡散臭いとは失礼な。ちゃんと妖怪を見てやって、それを追い払うための情報まで提供してやってるじゃないかい。持ちつ持たれつの関係といってくれないかい」


エセ猫が逃げると花見月は追いかけていく。最初はお遊びだったが、次第に全力で走り回る。その様子は、さながら猟師と獲物のようだったとか。




 その一方で、虚翠はというと。


「じゃあ、お願いします!」

「…何を?」


困惑していた。ここ数日なぜかお払いをしてほしいという参拝客が大勢訪れる。十中八九、エセ猫の仕業であるとめぼしは付いている。とりあえず、理由は何であれ仕事はする。要は客たちに取り憑く妖怪たちを引きはがせばいい訳だ。

 まず、交渉してみる。


「あー、あー。熱心にしているところ悪いが、取り憑くのをやめてもらえねぇか?」


温厚に終わらせられれば、万々歳。まあ、大体上手くいかない。これで剝がれなくても、問題ない。剥がれないことは想定済みである。

 その弐、実力行使。ちなみに作戦は二つしかない。大体実力行使すれば、言うことを聞いてもらえるから。


「少し、失礼するぞ」


参拝客の手を握って、呪い(まじない)をかける。ゆっくり甲に妖力を乗せていって、熱がこもったところで手を離す。そこには狐の(マーク)が刻まれていた。

 この印は妖怪には効果抜群だが、人体には影響は無い。さらに人間には印すら見えはしない。いわば妖怪同士のマーキングのようなものである。効力は三か月といったところ。短いが下位の妖怪であればあっさりとこれで出て行く。余程の不幸な人間でない限り、これで出て行かないヤツに取り憑かれることはない。

 今回の妖怪は、大したものではないようだ。もがき苦しみながら吐き出す恨み言を聞くと、参拝客たちが縄張りに入り込み、追い出すために取り憑き続けていたらしい。離れてもいいが、二度と縄張りに踏み込んでこないように言いつけるならばという条件付きであった。さもなくばと恐ろしげなことを言い出しかねなかったので、了承する。色々お疲れ様としか言えない。


「追い払うけど、これで懲りてこれ以上変なところに行くなよ。また行ったら、これより手ひどい目にあうぞ」

「え…そんなことも分かるのか。すげぇ」


感動しているところ申し訳ないが、するならするで自分で責任を持ってほしい。無責任に勝手して、面倒をかけるな。後ろの妖怪をみれば、参拝客たちを見下している。これはもう少し厳しめに言っておかないと、同じ轍を踏むだろう。

 反省をしていない様なので、さらにやり過ぎぐらいに釘を刺しておいた。周りの人が不幸になるだとか、大切なものがなくなっていくだろうとか。根拠はないが、妖怪の案件としてはよくある話である。参拝客は心当たりがあるらしく少し青ざめた顔をしていた。

 妖怪。人を畏怖させ幸福にも不幸にもする生き物。妖怪はそういった生き物の総称であり、妖怪には二通りある。高位と下位。その違いは妖力の量もあるが、言語を通して会話できるかという点にある。人の尺度でいうと人語もマスターできれば、秀才と言われる程だ。中には複数の言語を使うものも存在するらしい。その点をクリアした中でも数パーセントのモノたち_それを人間は妖と呼ぶ。妖は古株で頭が固い奴が多かったりするので、意外と相手が面倒だったりする。古い仕来りを気にしたり、相手が誰であれマイペース気ままにする。今回は妖怪であったので、楽に済んだ。


「ほら、どっか行ったぞ」

「あ...ありがとうございました」


参拝客たちは体が軽くなったと騒ぎ、500円を払って帰っていく。掌の500円を見て、破格の値段だと思う。専門家が対応しているのだから、もう少し高くてもいいと思う。してもいいはずである。あまり高くすると客が来なくなるとかなんとかエセ猫が言っていたから、恐らく聞いてもらえないだろう。

 日頃から人を商売道具に使うなと言ってやりたいが、実際集客に役立っているので何とも言えないところである。花見月も何か言いたげな表情をしていたが、結果が出ているので黙っているようだった。今日あたり、怒りだしそうな気がする。

 500円を懐に入れ、今日も今日とて日課の漫画を取り出し読み始める。何を隠そう昨日発売の漫画を買ってきたばかりなのだ。続きが気になる。神が出歩いて大丈夫かとよく本屋の嬢に言われるが、親しみやすさが無ければこんな神社やっていけない。決していち早く手に入れるためではない。花見月は中々買ってきてくれないからとか、そういって理由ではない。違うから。


「この猫!今日の今日こそ許さないからな!あんな商売やめろって」

「そ、そんなに怒んなくてもいいじゃないかい。実際役に立ってんだからさ」

「胡散臭さが増してんだよ!噂で集客できてるからいいものの、噂が消えれば誰も来なくなるんだぞ!」


エセ猫を俵のように抱えた花見月が虚翠の方へやってくる。先程から聞こえていた言い合いに決着は未だついていないようである。話が虚翠まで飛んでくるが、本神は適当に相槌を打ち、話を右から左に流すだけである。

 そうして、今日も何だかんだと日が暮れて行った。







雲行きが怪しくなり始めたのは、その日の夜。誰もが寝静まった丑三つ時のことである。

 昼間大騒ぎしたにもかかわらず眠れない。花見月は気分転換に縁側で外の景色を眺めていた。昼間が温かかったこともあり、虫の鳴き声が聞こえ始めていた。時期に夏が来るだろう。夏が来れば、扇風機が必要になる。それに食料が腐りやすくなってしまう。冷蔵庫の中のものももうそろそろ使い切らなければならない。明日の食事について考えていると、ぼんやりと光る空を見た。


「な、なんだ」


花見月は思わず、声を上げた。最初は小さな粒だった光が、次第に増え夜空を多い尽くさんばかりの勢いで輝いているのである。SF映画でしか見たことの無い景色に驚きを隠せない。だれかに知らせた方が良いのか、それとも見ていないふりをした方が良いのか。咄嗟に判断できかねる。


「落ち着け。あれは妖だ」


どこからともなく虚翠の声がした。見回すも誰の姿もない。


「そこにいるんだ?」

「ここだよ、ここ」


そう言って虚翠は屋根から庭へ下り立つ。長い髪が月光に照らされ、空と同じように輝いていた。後姿だけは完璧である。()姿()だけは。前はというと気崩された寝間着、素足...。色々言いたいことが込み上げてきたが、花見月は一旦口にはせず話を続ける。


「あれ全部妖怪なのか」

「まあ、少し違うがそんなもんだ。複数体が集まって群れを成しているみたいだな」

「何をしてるんだろう」

「何かから逃げて来たか、引っ越しだと考えられる。色々あったんだろうな」


虚翠は袖の中で腕を組む。そして空を見上げた。恐らく彼らの目的は引っ越しである。妖の引っ越しが起きたということは、それほどのことがあったということだ。しかもこっちに逃げて来たということは、反対側で何かあったのかもしれない。この辺りの地形、情勢は特殊で、こちら以外の三方向は勢力の入れ替わりが比較的起きやすい。

 虚翠の考えなど露知らず、花見月はのほほんと話す。


「綺麗だな」


虚翠は鼻で笑う。何も知らないとは幸せなことだと思う。だから、聞いてこない限りちゃんと妖怪については花見月に教える気はない。花見月は睨みを利かせるが、虚翠はどこ吹く風であった。


「あれは、妖力で発光しているんだ。アイツらは夜行性。真っ暗な中を動き回ることが多い。だからあの光があれば、何処にいても追える…そんなもんだとよ」

「なんかロマンチックだな」


虚翠は昔の記憶を引っ張り出す。その他にも何かあった気がするが、思い出せない。思い出せないのなら、どうせ大してことではないだろう。光る空を二人で眺め、そしてそのまま眠った。




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