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轍のゆくえ  作者: ルイン・リーカ
第一章
12/29

狐と神々弐

どこを見渡しても神、神、神。本当に嫌気がさしてくる。堂々とした表情を作り、前を見て歩いていると、色々な話が耳に入ってきた。ろくでもない話していない。神といっても様々だ。

 神議りではないため、来ている神は少ないが有名どころがチラホラといる。ただの親睦会ではなさそうだ。


「花見月、あ、あれは…」


花見月に肩を叩かれ、指差された方を見ると一頭…一柱の龍神がいた。蛇のように長い体に、鋭い爪が生えた手。立派な髭が、荘厳さを引き立てている。「龍神だな。気になるなら、ご挨拶してくると良い。気さくな神だから、歓迎してくれるぞ」と背中を押してやる。しかし花見月は首を横に振り、強い力で俺の腕を掴んだ。遠慮しなくてもいいといいっているというのに…

 遠慮するなと花見月を押すも動こうとせず、仕方なく連れ龍神の方に歩いた。こちらに気付いた龍神と目が合う。


「龍神、久方ぶりだな。また一段と老けたんじゃないか?」

「おお、狐の坊主じゃないか。お前がこんなところに来るとは珍しい。明日は槍か、それとも会議が白熱するかどっちかだな。ああ、恐ろしい恐ろしい」

「またまた御冗談を。冗談にしては面白いものではあるが」

「半分本気だったんだがなぁ…して、どうした」


ニコニコと笑いながら、俺は背後に隠れようとする花見月を押し出す。「今日紹介したいのがいてな」と花見月を隣り立たせた。龍神が目を細める。そしてクワっと目を見開く。


「こちら、私の神の使い…名を花見月という。気が弱い故、龍神に世話になるかもしれない。そのときは宜しく頼む」

「そんなに畏まらなくとも良い。普段の坊主でいてくれ。…それにしても坊主が使いを連れてくるとはな…やはり明日は槍か」


「感慨深い」と龍神は深く息を吐く。それを見た花見月が肩をビクッと震わせる。

 龍神は知ってか知らずか、花見月を近くに招いた。


「それはそれとして、花見月と言ったか。我は龍神、名を砕時結之草間という。単純に龍神でいい」

「い、いえ。こういう訳には砕時結…之…草間様」

「我が良いと言っているのだ。何が問題なのだ」

「……かしこまりました。龍神様」


花見月は頭を下げ深く礼をして、砕時結之草間と唱えていた。いざというときに備えてなのだろうが、そのときが来ないことを願いたい。モジモジとする花見月に龍神は初々しいとか何か抜かしていた。



 龍神の気遣いで、花見月に龍神の知人…知神を紹介してくれるらしい。俺の交友関係では限界があるから、顔の広い龍神がいて助かった。

 花見月は神々に頭を深く下げたり、丁寧に言葉遣いを変えたりして慌ただしかった。神々も早々に怒りはしないというのに、一々言い直したりと見ていてむず痒い。  花見月と対象的に、俺は花見月の後方で堂々と突っ立っているだけだった。周りからヒソヒソと厚顔無恥だとか言われているのが聞こえたが、チラリと目線を動かして睨むようにすればあっという間に逃げ去っていった。同じ土俵に立って物言えぬ雑魚どもだ。

 一旦休憩タイムに入ったらしく、花見月が此方に歩み寄ってくるのが見えた。


「何かあったか」

「何もないぞ。ちょっとした虫が五月蠅くてな」


花見月は喉が渇いたらしく、片手に水を持って来ている。サービスとして提供されている水だった気がする。名水と呼ばれる秘伝の湖の汲水で、確か飲めば万病が治るとかなんとか。値段は人間の通貨で何千万、何億とつくだろう。そんな貴重なモノと知らず、花見月はグイッと飲み干す。虫なんていたかと首を傾げていたが、気にするだけ無駄なことで教えてやらなかった。


「神々の集まりはどうだ?馴れそうか」


花見月は首を横に振った。


「馴れない。話していると人間とそう変わりはないのに、態度というか雰囲気が圧力を感じさせて…なんというか、違和感がある」

「そうか」


短く返した。花見月はまだ話したりないらしく、ペラペラ話ているのを流し聞きしていた。

 人間と神。姿は同じ人形でも、全く性質の違う二つである。前の付喪神は想いによって宿ったものだし、俺は動物から神になった。神格化の方法はそれぞれだが、人間から神になるのは骨が折れると聞く。それこそ縁がなければなれない。


「ほら、次の神を紹介してもらってこい」


龍神がチラリと見ているのが見えた。しかもまたヒソヒソ話す声が聞こえて来たので、花見月を急かす。急になんだと言いながらも龍神と名の知らぬ神の元に戻っていった。遠くに行ったのを確認してから、後ろに振り向いた。噂話をするヤツらに睨みを利かせれば、蜘蛛の子を散らすように逃げ去る。これは一時的な抑制にしかならない。すぐにまた湧き出すだろう。本当に虫みたいだ。


「ほらアレが例の狐です…」

「例の?あんな姿をしているなど、身の程知らずが…」

 

耳障りな話で、いい事なんて一言も含まれていない。抑えはするが、きっとそのうち花見月の耳にも入るだろう。そのとき変にこじれなければ良いと思う。

…本当、面倒だ。



暇になったので、仕方なく酒を頂戴した。まだ昼だとか気にしていられない。神が集まれば宴会が開かれるのが定石だ。酒が準備されないわけがない。そしてその酒がまずい訳がない。舌の肥えた神々に飲ませる酒は、最高級のものが用意されるだろう。

 度数が強いもので喉の刺激を楽しみながら、つまみを食べているとまたヒソヒソと話し声が聞こえた。本当にすぐ群れたがる。暇神ばっかりが集められているように感じてきた。


「これはまたドブ臭い…どこかの狐がいるからかもしれぬ」

「料理が台無しになってしまう。さっさと追い出してしまいましょう」


陰口には慣れている。くだらないことに突っかかるよりも、つまみを堪能することに集中することが楽だった。口封じしたらしたで、またあることない事が広がっていくだけである。ぶん殴ってやりたいが、ここは此方が大人になるべきだ。

 いつもならそれだけで終わっていた。火のないところに煙は立たないというのに、わざわざ燃やしにいくヤツがいるのをすっかり放置してしまっていた。ぶつくさ言っていた神は予想もしていなかっただろう。口出しするなと言い聞かせるんだったと後悔しても後の祭りであった。ソイツは無視すればいいのに、陰口を叩き続ける神の方にズンズンと歩いて行った。そして突っかかった。


「ちょっと、そんなこと言うのやめてください。言われた側の気持ちを考えないんですか」


ホント最近余計なことを起こしている花見月である。花見月は龍神の友神と話していたというのに、そっちをすっぽかしてこちらに来ていた。龍神の方を向くと、推定龍神の友神が呆けており、龍神自身は腹を抱えて笑っている。この状況で笑うことを許される龍神が恨めしかった。気分は目の前で怒られる友人を見ているときに近い。

 花見月は、陰口を叩いていた神々に堂々とした態度だった。イレギュラーな存在の花見月は、きっと何も知らない。知らないからこんな態度を取れるのだろう。陰口を叩いていた神が、突然噴き出す。急に笑い始めた神に花見月は白い目を向けた。

 ツボにはいった神は俺の方を指差しながら言った。


「お前、確か|この狐≪コイツ≫の神使だったなぁ。そんな態度を取っていいと思ってんのかよ」


その言葉を聞いて、周りの神々が笑う。一方で龍神は一切笑っていなかった。さっきまで笑っていたのが嘘のよう。表情がまるで氷のように冷たい。


「俺は間違ったことはしていない」


鋭い目つきで、いまだ笑う神を睨んだ。その態度を見て、笑う神含め周りがどっと笑った。


「俺は間違ったことはしてないと思う…だってよ。聞いたか?何もかも間違ってんのによぉ。可哀そうになぁ、何も知らねぇんだなぁ。教えてもらえてねぇんだなぁ」


煽る神に花見月は次第に怒りが湧いてきて、殴りたい衝動にかられたが何とか抑え込む。神は花見月の努力を水の泡にするように、ドンドン煽っていく。会場もいつの間にかゲームのように楽しんでいるように見えた。


「…何のことだ?」

「やっぱり、教えてもらってねぇんだなぁ。だから、そんな態度をとれるわけだ。分かった分かった、親切な私が教えてやろう」


俺は何も言わなかった。いや、言えなかったと言った方が正しい。隠していたつもりはないと言い訳できない訳じゃない。しかし、口が動かなかった。

 ただ聞くな。そう叶わぬ願いを願った。


「そこの狐はな、化け物なんだ」

「知ってる」


汚い笑いを零す神に花見月は作り笑いで流した。会場がシンと瞬時に静まり返る。


「ただの化け物じゃない。近くにいるものを喰い、周りのモノを祟る。実際に祟られたって神もいるって噂だ」

「そうですか」


またも花見月はアッサリと流し、「変な噂されてるぞ、気をつけろ」と俺に呼びかける。分かったと俺はなんてことないフリをして返事をした。実際はそうでなかったかもしれない。


「たいそうな噂ですが、俺は嘘に聞こえます。何処の誰が言ったんです、そんなこと。普段のアイツを見たほうがいい。神のすべきことさえ面倒ごととして扱う。あんな自堕落なヤツ中々いない」


喧嘩を売られているらしい。何やら言いたいことがあるらしいので、今は見逃してやる。後で覚悟しとけ。

 花見月は一息ついて、また息を吸い込んだ。深く、遠くまで届くように吐き出す。


「たとえ本当に化け物だったとしても、アイツを見ていたからわかることもある。自分の見たことを信じる。今を信じてやれるのは、今を生きているヤツだけだから」


花見月はだからと続けた。


「いつもバカしかしない、バカでしかないけど。俺に全部ぶん投げることしかしないけど…そんなバカを信じれる家族(バカ)でありたい」


どっと笑いが起こる。花見月を謗るような声も交じっていた。


「なあ、聞いてたか?神の噂ってのは、実際に起きたから起こってんの。分かってる?おバカさん」


花見月の前にいるヤツは、花見月の肩をポンポンと叩いた。花見月は何も言わず、何も動かない。ただソイツを空気のように扱った。



 いつも通りにしておけばよかったのだ。俺だけを標的にすれば、きっと丸く収まった。収めてやるつもりだった。自分の分だけなら無視してやるのだが、今回はそうはさせない。いつもなら俺は鼻で笑ってやるところ。しかし今回笑うのは止しておこう。その代わりに盛大な仕天罰(祟り)を。


「おうおう、言いたいこと言ってくれんな」


花見月の隣に立ち、花見月に散々言っていたヤツの目の前に立つ。俺の姿を見て、ワザとらしく鼻をつまむ仕草をした。


「獣臭が強くなったなぁ。やっぱり獣を神の会合に連れてくるべきではない。臭くなるだろう。ほとほと迷惑だ」


品格がどうちゃらこうちゃら言って、ソイツは罵ってくる。それを聞いて、花見月が堪えきれず突っかかろうとする。もういいと引き留めるように、俺は花見月の頭を勢い良く撫でてやった。上目遣いの花見月と目が合い、安心させるように笑みを作る。


「…ほう?それは失言ではないだろうか。貴殿、今すぐ取り消すのなら、間に合うぞ」

「失言だぁ?俺が言っていることは真実だろう。何を取り消す必要があるというのだ」

「ふむ、そうか。分かった」


ソイツは下衆のような笑みを浮かべ、一部の神々も便乗して笑う。見物していた大半は、不穏な気配を感じてか口をつぐんでいた。ここまでやって手を引くとは情けないと思わなくもない。この状況では、賢明な判断ではあるが。

 右手を口元に当て、ワザとらしくゆっくりと俺は話した。分かりやすいように。


「つ、ま、り、貴殿は大国主命様の命に逆らう…と?」


さっきまでの下卑た笑いは、ぴたっと止んだ。目の前の神は、眉をひそめている。


「いつ命に逆らったと?」

「貴殿は言ったではありませんか。”俺を連れてくるべきではなかった”と。それはつまり、連れて来た大国主命様に”連れてくるな”命令しているのではないか」

「それは曲解ではないか」

「いやいや、曲解ではない。素直に考えてくれ、分かるだろう?

だから、取り下げるように言ったのに…貴殿は言い切ったではありませんか。”何も取り消す必要はない”と。何か間違ったことを申し上げましたか」


にっこりと笑いかけると、神は口元を引くつかせた。そして自分が不利でそうしようもない事を悟ると、負け犬の吐き台詞を吐いて逃げていった。続いて取り巻きの神も逃げて行った。

 完膚なきまでの敗走。見事なまである。ここまでしてやったら、もう放って置いても良い。良いのだが、今回は少し言い過ぎた。彼の神らがいつも通りに抑えていれば良かったものの、やり過ぎてしまった。お仕置きが必要だ。



 空に浮き上がって、逃げる神を目下に収める。そして指をパチンと鳴らした。瞬時にヤツらを青い炎が襲う。炎は轟轟と燃え上がり、消えることを知らない。焼け死んでしまうと思ったヤツらは慈悲を乞うているが、誰も助けようとしない。

 ギャーギャー喚いているが、実は、炎は五分ほどすれば鎮火される。きっとあの神は、これで助かったと喜ぶだろうがこれでは終わらない。炎は幻術で実際に燃えてはいないし、精神的にしか追い詰めていない。これから、もっと酷いことが待っているだろう。狐の祟りお仕置きを受けてしまったのだから。

 



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