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トラベル:別れ、旅立ち、新生活。

 東京発、博多行き。東海・山陽新幹線「やまびこだま」。

 春休みに突入したこの時期は、地方への帰省に向かう人達でどこもいっぱいだ。もちろん、転勤や引っ越しのためにこの新幹線を利用する人も多い。自分早海麗蘭はやみれいらもその一人だ。


「はーやん先輩、クッソお世話になりました」

「チッ、別れが惜しい。……イアナを……よろしくお願いします」

「次こっちに帰ってきたら、おいしいお酒用意して待ってっからよ!」

「こっちこそありがとう。みんなのこと、イアナに伝えておくから」


 アンネちゃん、ミントちゃん、マコリちゃん。みんな自分の恋人イアナの親友で、そして自分の戦友……みたいな。


「あの……これ、ウチら三人から」

「うん?」


 渡されたのは、封筒。中身は……お札だった。


「どうしたの、これ?」

「三人でバイトとか、みのりっちの食堂の手伝いとかで貯めたお金です」

「全然足りないけど、ちょっとでも足しになればよ」

「チッ、遠慮なく使ってください」

「……わかった。ありがたくもらうよ」


『10時38分16秒発、博多行きやまびこだま号、まもなく発車します』


「チッ、それじゃあ……お元気で」

「うん、みんなもね」


 荷物……詰め込み過ぎたかな、特に機材関係。

 発車メロディーを合図に最後の言葉。重たいキャリーバッグをなんとか引きずり入れる。


『本日も新幹線をご利用いただき、ありがとうございます。この電車はやまびこだま号、博多行きです。途中……』


 適当な自由席を見つけ、一息つく。

 自分が乗った空の宮中央駅から目的地の小倉駅までは、約5時間の道のり。飛行機じゃなくて新幹線を選んだのは……去年、空港で大変な思いをしたからだ。


 思えば、去年はいろいろあったなぁ。

 イアナが無理矢理結婚させられて、あのおっきな屋敷から連れ出して、イアナのお母さん達が学校までやってきて、イアナを逃がす作戦をみんなで立てて、そして……。


 自分は、イアナが今住んでいる福岡へ行くことになった。



 ◇



 ここまで遠かった。

 小倉駅からバスで内陸側へ向かい、少し歩いたところ。

 このアパートが、自分達の新しい住処だ。

 イアナは昨日、既に下宿先からここに来ているはず。インターホンを鳴らす。


麗蘭れいらっ!」


 少しの静寂を破る、恋人の声、そしてめいいっぱいのハグ。


「会いたかった……! 本当に……! ずっとずっと待ってた……!」

「自分もだよ、イアナ」


 電話で連絡を取り合っていたとはいえ、”あの空港”で分かれてから半年以上も経っているんだ。感動もひとしお、なんてレベルじゃない。抱きしめ返すことで、お互いの体温を確認する。

 体だけじゃなく、心まであったかくなっていく。

 吐息が、近い。

 当たり前のことだ。

 ……あっ。


「イアナ、先に管理人さんに挨拶しにいこうか。あと、暗くなる前に色々と必要なものを買いにいかないと」

「えっ、……えぇ、そうね……」


 自分が止めたのが原因なのだけれど、顔を赤らめておあずけを食らったイアナはかなり可愛かった。



 ◇



 着替え、消耗品、食器、調理器具、調味料、それと小さな卓。布団は大きすぎて運べなかったから、配送手続きを。ホントにホントの必要最低限のものは揃ったかな。洗濯は、すぐ近くのコインランドリーにお世話になることにしよう。


「……イアナ、雰囲気変わったね」


 お惣菜コーナーに10パーセント引きで売られていたひじきの煮物のパックを開けている彼女に聞いてみた。腰まであったはずの黒髪はショートとまではいかないまでも短く切りそろえられ、引き締まった流麗な肢体はダボついた薄手の灰色パーカーに包まれ、さきほど外出した時も常に目深にキャップを被っていた。


「だって……このくらい変わっていないと、あの人達に見つかるかもしれないもの……」

「……そうか、そうだよね。ごめん。今のイアナも、めっっっっっちゃくちゃ可愛いよ」

「もう……っ」


 そう、この笑顔。

 大切な人の笑顔をすぐそばで見守っていられるなら……みんなで、がんばってきた甲斐があった。

 これからも、ずっと一緒にいよう。

 半年分のブランクなんて、きっとあっという間だから。

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