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健全な人間関係

「ほらよ、食え」


採ってきた野イチゴを俺が差し出すと、


「あ……あの……」


と、リーネが戸惑う。今、彼女の頭の中では、俺がなぜそんなことをするのかあれこれ考えてしまってグルグルしてることだろう。それこそ、


『私の体が欲しいから?』


みたいなことまで考えているかもしれない。が、無論、俺はそんなつもりはない。そこまで下衆になりたいとは思わない。


「さっきも言ったが、お前に体調を崩されたりしたら俺が面倒なんだ。これはそのためのものだ。四の五の言わずに食え」


などと、いちいち命令しないといけないのが本当にどうかしてる。こんなもの、健全な人間関係じゃないだろう。


「はい……っ!」


慌てて野イチゴを受け取って口に運ぶリーネの姿に、俺はふと柔らかい感じがしてしまった。もしかすると表情も緩んでいたかもしれない。


前世では、娘のこんな姿も見た覚えがない。本当は見たこともあったのかもしれないが、仕事に追われて忘れてしまったのかもな。


<社畜>だなんだと言われつつも、俺は、家族のためにと思って頑張ったんだ。


……いや、正直、家に帰るよりも仕事をしてる方が気が楽だったというのもないわけじゃないが……


なんだろうな。仕事に明け暮れてる間に、女房の顔を見るのが億劫になっていったんだ。気を遣わせるのも悪いかなと思ったのもある。それでいて、女房が気を遣ってくれると一方的にそれに甘えてたな……




さて、野イチゴだけじゃ十分とは言えないが腹の足しにはなったと思うし、


「どうだ、行けるか?」


俺はリーネにそう尋ねた。


「はい……」


まだ怯えたような様子はありつつも、彼女もスッと立ち上げって、歩き出す。今度はそれこそ、彼女の歩幅に合わせてゆっくりと進む。


そうして周りを見回しながらだと、この辺りは、食べられる野草も結構成っていて、豊かそうだ。もっとも、大人数が居つくと、ぜんぜん足りなそうではあるが。俺とリーネが暮らすだけなら、何とかなりそうではある。


『このまま、リーネと二人で暮らすというのも、ありかな……』


とも思ってしまったり。


ああ、いやいや、さすがにそれはな。


頭によぎったその考えを振り払って、俺はリーネと共に先へと進んだ。


だが……




「こりゃ、ちょっと、な……」


俺達の視線の先には、高さ十メートル以上はありそうな、<滝>が。


しかも、リーネはおろか俺でも上るのはさすがにヤバそうな感じだ。一旦、山の方に上がって大きく迂回するしかないか。


こういう時、登山とかに詳しい奴はあれこれアドバイスめいたことを言ってくるんだろうが、登山に関する知識なんてアニメや漫画とかで見た程度の人間にそんなことが分かるとでも思ってんのか?


って話だな。



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