何よりの御馳走
そんなこんなで余計な手間がかかってしまったが、なおもゴロゴロと出てくる石に悪戦苦闘しながらも、俺は穴を掘り続けた。
その間、リーネは、ネズミの下処理を済ませて今度は水汲みに出る。俺もリーネもそれぞれの役目を果たす。そうやって俺達は生きていくんだ。
すると、リーネが水汲みを終える頃、今度こそいい感じに掘れた。そして、再び石を敷き詰めていく。
「よし、深さも十分だ」
つい独り言が出てしまったが、まあいい。そんな俺に、水汲みを終えて石を鎚で打ち始めていたリーネが、
「おめでとうございます!」
笑顔を向けてくれた。もっとも、彼女は意味が分かっててそう言ったわけじゃないだろうけどな。作業はまだまだ続くわけで。
でも、悪くない。彼女の笑顔が俺を奮い立たせてくれる。そうして、底の部分に石を敷き詰め終えた。
とは言え、リーネが角を落としてくれた石はそこで尽きてしまった。底だけじゃまだまだ足りない。ちゃんと立ち上がりの部分にも石を組み上げなければ、湯を入れる度に土が溶けて崩れ落ちるだろう。湯も泥まみれになるしな。
そんなわけで俺も、リーネと一緒に石の角を落とす作業に移った。ナイフの背を使ってコツコツと石を打つ。さすがに危険なので慎重に。
コツコツ。
コツコツ。
コツコツ。
コツコツ。
リーネと二人して、恐ろしく地味な作業を延々と続ける。
「ちょっと休憩するか」
日が真上に来た頃、俺が声を掛けると、リーネは、
「じゃあ、ネズミの肉を焼きましょう」
すでにネズミを捌いて串に刺して、あとは焼くだけにしてあったそれを、庭に彼女が作った竈に火を熾して焼き始める。
ジュウジュウと肉の焼ける音と共にいい匂いが。
ただのネズミとして見れば大きなそれも、二人で食う肉として見るとさすがにちょっと寂しいが、まあいいさ。その分、じっくりと味わおう。
「どうぞ」
いい感じに焼けた肉を、彼女は俺に渡してくれた。その気遣いが嬉しい。
「ありがとう。美味そうだ」
正直な印象を口にする。素直にそう言える。前世では、女房との一緒の食事ではそんなこと、言った覚えもないのに。
こんな些細なやり取りがこんなに幸せに感じられるとはな……
なんでこれをしてこなかったのか、前世の自分に腹が立つ。
でもまあ、それを嘆いても始まらない。今は少なくともリーネの笑顔を見ながらこうして家の庭で食事ができるんだ。この幸せも味わえばいい。
「ああ、美味いな……本当に美味い……」
「ありがとうございます♡」
正直に言えば前世で食った安い焼き肉の方が美味いと思う。でも、リーネの笑顔が何よりの御馳走なんだ。




