アントニオ・アークとして
アントニオ・アークとしての役目についてはほぼ終えた実感があり、俺はもう、ほとんど動かなくなった体をベッドに横たえたまま、子供達からの介護を受けた。
それは、阿久津安斗仁王が高齢者施設でプロである職員から受けたものに比べれば、技術的には確かに拙くはあったものの、そこに込められた<気持ち>自体はまるで別物だったと思う。
なにしろ高齢者施設の職員はあくまで仕事としてやってるだけだからな。もちろん中には気持ちを込めてやっていた職員もいたんだろうが、残念ながら俺はそういう職員に当たったことはない。皆、とにかく事務的に、ほぼほぼ感情を押し殺してロボットのように働いていただけだと感じている。
そりゃそうか。<自分の親>でもないただの赤の他人だもんな。しかも、自分の親に対してさえ、真摯な態度で介護に望める者なんて、そうそういない。ましてや、阿久津安斗仁王のような、人を人とも思わない、介護施設の職員をまるで奴隷のように思っている、それどころか実の娘であるゆかりが俺の面倒を見てくれていたとしてもやっぱり奴隷のようにこき使っていただろう人間相手に誠実さを貫ける<聖人>が、どれだけいるってんだ。
阿久津安斗仁王のような奴をまっとうに愛するなんてできるか? できる奴はいるかもしれないにせよ、誰でもができるわけじゃないだろう。
しかも、よしんば人間扱いしていたとしても、自分の孫のような世代の職員のことなど<若造>と見下して侮って、
『ガキは厳しく躾けてやらなきゃいけない』
的な態度で接していただろうな。
だが、<アントニオ・アークとしての俺>に対して子供達は、食事を用意してくれて、食べさせてくれて、体を拭いてくれる、俺の出した糞や吐き戻した吐瀉物を始末してくれる事実については、本当に感謝しかない。
「ありがとうな……」
かすれた声で俺がそう口にすると、
「別に……感謝されるようなことじゃないから……」
マリーチカはつっけんどんな口調で視線を逸らして、言い放った。
その彼女ももう十三歳。リーネが俺と出逢った時の歳だ。もっとも、その時のリーネの歳は数えだったから、同じように数えで言うと、マリーチカは十四歳ということになるけどな。
まあそんなことはどうでもいい。
口は悪くても、必ずしも好きでやってるわけじゃないというのも事実でも、そうしようと思ってやってくれているのは感じる。
何より、俺に対して、それまで自分がやられてきたことをやり返そうと思ってるわけじゃないのは分かるし。
いるだろう? 親が歳を取って体が弱って自分より明らかに弱くなったら、自分が子供の頃に親からされたのをやり返す奴が。マリーチカにはそれがないんだ。




