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なんか変な臭いする……

だがそれは、歳の所為でも<ただの腰痛>でもなかった。


「これあ……やっぱ確定だな……」


さらに三年が経って、俺は自分の体に起こった異変について確信していた。


たぶん、<ガン>だ……俺の異変に最初に気付いたのは、カーシャだった。


「お父さん、なんか変な臭いする……」


彼女が不意にそんなことを口にしたんだ。最初は俺も、


『いよいよ加齢臭が出てきたか~』


的にしか思ってなかったんだが、カーシャにそう言われて二年が過ぎた頃、


『まさか……』


と思った。その考えに至った瞬間、体中から冷たい汗が噴き出してくるのを感じた。胸の奥の深いところが冷やされているような、ゾッとする感覚。


『まさか……ガン、か……?』


自分の考えに戦慄する。


だが、体重が急激に減り、見た目にも異様なくらいに痩せてきたのが自分でも分かっちまった。まともな医療も存在しないここじゃ、それは確実に<死の病>だった。ましてやここまで自覚症状が出てるってことは、阿久津安斗仁王(あんとにお)が生きてた世界でも相当ヤバい段階だろう。それを思うと、ガタガタと体が震えてくる。


『まだ四十にもなってねえってのに……』


とは思うものの、それはあくまでアントニオ・アークの肉体の話。俺自身の意識としてはすでに百二十年近く生きてきたことになるけどな。


でもよ、怖いものは怖いんだよ……一度経験してても、死ぬのは怖い……


「トニーさん……」


「……」


子供らが寝静まった後、リーネとトーイが自分達の家からこっちに来て、作業場で一人佇んでいた俺に声を掛けてくる。


「もしかして、何か病気……なんですか……?」


意を決して恐る恐る問い掛けてくるリーネに、俺は、


「たぶんな……もう、長くないと思う……」


隠しても仕方ねえし正直に応えた。するとトーイが、


「街に行って医者に診てもらおう! イワンならいい医者も知ってるんじゃないか……!?」


と言ったが、俺は首を横に振って、


「俺は……この病気を知ってる……これはどんな医者でも治せないヤツだ……」


きっぱりと告げた。そうだ。阿久津安斗仁王(あんとにお)が生きていた世界ならまだ『もしかしたら』というのもあっても、こっちの世界じゃ無理なんだ……


「そんな……!」


リーネが、薄暗いオイルランプの灯りの下でも分かるくらいに真っ青な顔になった。けれどトーイは、


「そんなの、やってみないと分からないだろ……!」


と、怒った表情で口にする。さらに、


「ラーナはまだ小さいんだぞ…! 父さんにはもっともっといろいろ教わらなきゃいけないことがあるんだ……! 勝手に死ぬなよ……!」


絞り出すようにして苦し気に言ったのだった。



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