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カーシャの才覚

大酒飲みの爺さんの死を予言したカーシャを気味悪がる奴も中にはいたが、それ以上に彼女は当てにされていた。歩いてる時の足音で、


「おばさん、足が痛いんじゃない?」


と彼女が察すると、


「そうなんだよ。歳かねえ……」


などということはざらにあったからだ。しかも熱がある奴を前にすると、


「なんか熱いよ。ちゃんと休んでしっかり治さないとダメだよ」


とも言ってのけもする。いわゆる<輻射熱>ってのも敏感に感じ取れるようだ。ちょっと熱がある奴のそれさえ、ある程度まで近付けば分かるってんだから、かなりの高性能だと思う。


さらには、普通にはまだそこまで臭うってわけでもない息の臭いで、内臓が荒れてきてることも察したりする。普通の奴でもかなり胃が荒れてる奴の息の臭いなら『臭い』と思ったりするだろう? あれの初期段階でもう分かるらしい。


確かに彼女は目が見えないが、俺達には聞き取れない音も聞き取り、感じ取れないものも感じ取れるんだ。それをきちんと活かせばできることはあるって話だろう。加えて彼女は、木版に刻んだ文字も指先でなぞることで読める。その上、巧いとはさすが言い難いが読める程度の字も書ける。村の連中よりよっぽど学がある。算術も暗算でできるしな。


なにより器量がいい。やや仏頂面なことの多いマリーチカに比べると愛想がよくて笑顔が可愛らしいんだ。トーイのことで泣いた時なんかにはびっくりするくらいブサイクな表情(かお)で泣いてたが、普段はそうなんだよ。


だから、村の連中にもおおむね好かれてる。


中には、


「ちゃんと目さえ見えてたらうちの息子の嫁に欲しいくらいなんだけどねえ」


的に、いささかデリカシーのない言い方をするのもいるが、この辺りも『他者が自分の思い通りになることはない』ってもんの一例だろ。気にするだけ無駄だ。


理解できない奴には理解できないんだよ。俺のやってることなんかな。その事実は事実として受け止めるだけだな。


と、自分に言い聞かせる。


『自分ばっかり我慢するのはおかしい!』


とか思っても、世の中は変わらねえよ。自分の受け取り方を変えるしかねえんだってわきまえな。


ましてや、


『自分の気に入らない奴なんか絶対に認めねえ!』


とか言ってる奴はな。てめえの<絶対>が揺らがねえなら、世の中も揺らがねえんだ。


でもカーシャは、


「それは残念ですね~」


と、受け流してくれる。受け流した後で、


「はあ……」


って俺の前では『いい気がしなかった』と素直な様子を見せてくれるから、俺は彼女を、


「お疲れさん。いつもありがとうな」


そう労うんだ。



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