新しい工房
それはさて置き、ここじゃ、長ければ二歳くらいまでは授乳することもある。自然と母乳が止まるまで与える感じか。その方が始末に困らなくて済むというのもあるらしい。しかも<離乳食>はそれこそ、
<母親が噛み砕いてペースト状にしたもの>
だったりもする。が、うちじゃ、野菜の煮汁から始めて、カボチャをとろとろに煮たものとかを与えてたけどな。カーシャもマリヤの時もそうだった。さすがに阿久津安斗仁王の記憶がある分、<母親が噛み砕いてペースト状にしたもの>を与えるのはいささか抵抗があったし。
そして子供達はみんな健康に育ってくれてる。
ところで、新しく建てたリーネとトーイの家にも、アンナの伝で呼んだ職人の手で<炉>を作ってもらった。しかも、俺が使ってる古いのよりもしっかりしたものだ。さらに、金床も新調した。エリクの伝で街から取り寄せたんだ。職人に頼んでもよかったが、それだと輸送量がかなりお高くなるしな。エリクの場合は、こっちに来るついでに運んでもらえたから<お友達価格>で済んだ。
しかも、新しい家は、居住スペースと工房は別にしてもらったぞ。こうして<新しい工房>でトーイは一層、仕事に打ち込んでくれた。子供も生まれたからな。父親としての責任感が芽生えたようだ。
若いが、もう一人前の<鍛冶職人>だよ。腕も、同じ歳だった頃の俺よりもいいかもしれない。
てなわけで、トーイには鍛冶としての仕事に集中してもらうことにして、村へは俺とカーシャ。そしてマリヤとマリーチカ、さらにボリスで向かうことに。
カーシャもマリーチカも、リーネとトーイの仲のいい夫婦ぶりを見てるのはいささかつらいみたいだしな。
とは言え、さすがにもう二年も経ってるし、かなり踏ん切りもついてるようではある。
そしてカーシャとマリーチカは、揃って<看板娘>になってくれていた。実の親と顔を合わせても、どちらも平然としてる。親に対する感情の方がよっぽど割り切れてるようだ。カーシャにはそもそも記憶もないから当然だろうし、マリーチカも継父も実母も好きじゃないからな。
納品と受注を手伝ってくれるカーシャは、相変わらず村の連中の体調まで察することができて、重宝されていた。
女房がいくら、
「あんた、体の具合、悪いんじゃないかい?」
と言っても聞かなかった頑固オヤジが、
「おじさん、お酒控えた方がいいよ。口臭い」
ってカーシャに言われると、
「ええ!? マジか……!」
ショックを受けて本当に酒の量を減らしたなんてこともあった。何しろ彼女は、
「お酒控えないともうすぐ死んじゃうよ」
と、大酒飲みで有名だった爺さんの死を予言したことさえあったんだ。




