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切々と語ってくれた

リーネは言う。


「私は、本当は実の両親が亡くなった時に一緒に死ぬべきだったとずっと思っていました。叔父夫婦のところに預けられたのも、間違いだと思っていたんです。こんなことはあっちゃいけないことだと感じていました……けれど、生きていたからこそ、トニーさんと出逢えて、トーイと出逢えて、家族ができて、私は幸せを感じることができました。私は今、自分が生きててよかったと、間違いなく思っているんです……」


ラーナに授乳しながら、彼女は切々と語ってくれた。ラーナを見る目が、本当に優しかった。そんな彼女でも、『死ぬべきだった』と思っていた時期があったという。


そうだな。そういうのは誰にでもあることなんだろう。そんなのが一切ない奴の方が例外だと思う。だからこそ、つらい時期を一緒に受け止めてくれる相手が必要なんだとつくづく思う。そしてそれができるのは、結局、親なんだと思うんだよ。


もちろん、人生の中で出逢った相手がそういう存在になってくれる場合もあるだろう。そういう相手と一緒に暮らせるようになれば幸せにもなりやすいだろう。けどな、そのために必要なのが、


<相手を労わり敬う姿勢>


のはずなんだ。それがないと、一緒にいること自体が苦痛になる。ああ、そうだよ。阿久津安斗仁王(あんとにお)自身、女房もゆかりも、<一緒にいて苦痛な相手>でしかなかった。でもそれは、女房やゆかりにとっての俺こそが<一緒にいて苦痛な相手>だったからだ。そんな相手を一方的に労わり敬うことができるような聖人君子がこの世にどれだけいるってんだ。何人かはいるとしても、そんな人間に選んでもらえるような人間か? 自分は。


そうじゃねえだろう? そうじゃねえなら、まずは自分が相手を労わり敬える人間になれってんだ。じゃなきゃ、自分を労わり敬ってくれる相手とも出逢えないだろうな。


リーネはそれができるから、トーイと出逢うことができた。これは、トーイも同じだ。


だから俺はリーネに言う。


「生きててよかったと思えるのは、俺も同じだよ。それは間違いなくリーネのおかげだ。リーネと出逢ってなければ俺も今まで生きていなかったかもしれない。生きてる意味を見付けられなかったと思うんだ。ありがとう。俺にとってもリーネは恩人だよ……」


そんな俺の言葉に、


「いえいえ、私の方こそ……!」


少し焦ったように声を上げると、


「ふええ……」


ラーナが泣きそうになった。驚いたんだろう。


「ああ、ごめんね。びっくりしちゃったね……」


リーネは穏やかにラーナをなだめる。それが俺にとっても<幸せな光景>なのだった。



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