リーネの才能
イワン謹製の、
『泣き虫マリヤの冒険』
の絵本をマリヤが大切にしてるから、リーネがそれを写本して複製したものを、誰もが読める絵本として家に置いてある。
リーネも写本は今も続けてくれてるんだ。そして、カーシャとマリヤとマリーチカとボリスとペトロも、読み書きと算術を、リーネから教わってる。どうやらリーネには、
<教師としての才能>
がありそうだ。<絵本を作る才能>はイワンには到底及ばなかったものの、教え方が丁寧で分かりやすくて、ボリスとペトロもあっという間に字が書けるようになった。簡単な算術ならできるようになった。
これもそうだろう? 持ってる才能や適性も個人個人違うんだ。まったく同じ接し方をしていてそれが上手く育つと思うのか?
と同時にリーネは、母親としてもとても子供を大切に思ってくれてる。ちゃんと子供を<人間>として接してくれるんだ。自分の思い通りにならないからってキレたりもしない。もちろん人間だから時には不機嫌になったりもするが、そこはトーイと俺がフォローする。何もかも彼女に押し付けるつもりもない。
トーイも、村の男共と違って、リーネのことを人間として接してくれる。家政婦とか奴隷とか家畜とか、そんな扱いはしないぞ。
そうだ。それができるから、リーネとの結婚を許した。
一方、カーシャとマリヤとマリーチカは、俺がリーネとトーイの結婚を認めたこと、イワンが家を出て行くのを認めたこと、等が原因になったのか、俺に対して少々反抗的な振る舞いも見せている。
いるが、
「お父さんなんかキラ~い!」
「ぶーっ! ぶーっ!」
「なに? なんか用?」
的な些細なものだ。しかし、カーシャとマリーチカは、
「俺の方からも頼むよ」
トーイがそう言うと。
「仕方ないなあ……」
と言ってくれるし、マリヤも、不満そうにブーイングは上げながらも、俺の膝に座ってきたりもする。だから、細かく<ガス抜き>をしてるんだろうと感じるんだ。本気で家を出て行こうとか考えてるわけじゃないのは、様子を見てれば分かる。
だが、そういう彼女達の<ガス抜き>に過剰に反応して威圧的になれば、それこそ、
『こんな家にはいられない!』
と思われたりもするだろう。それに、
<自分にとって都合の悪い振る舞いをする相手>
への接し方についても、こういう形で手本を示すんだ。人間として生きてる限りは、相手が常に自分にとって都合よくいてくれるなんて有り得ない。そういう時にキレて怒鳴ったり暴力を振るう奴が、
<モンスター化>
するんだろう? モンスターペアレントやモンスターカスタマーやモンスターペイシェントとかになるのはそういう奴じゃないのか?




