泣き虫マリヤの冒険
足が不自由で『価値がない』として捨てられたイワンが、今は街で絵本作家としていい家に住んで、メイドまで雇ってるらしい。ただ、リーネへの想いを捨てきれないらしく『結婚は考えてない』と、エリクが届けてくれた手紙には書かれていたな。雇ったメイドも既婚のオバサンらしいし。まあ、その辺は好きにすればいいさ。
『孫の顔を見せろ』
とは言わない。リーネとトーイが孫の顔を見せてくれたのは、あくまで二人がそれを望んだからだしな。俺が『見せろ』と言ったんじゃないんだ。
ただ、イワンが街に出て行く時、当然のようにマリヤは泣き叫んだ。トーイにフラれた時のマリーチカやカーシャと同じくな。
『イワンと一緒に行く!』
と駄々もこねたが、まだ三歳になる前だったマリヤを連れていくのはイワンにとっても大変な負担だったし、なによりイワン自身がそれを望んでなかったから、マリヤにも、泣いて、泣いて、とことん泣いてもらって、駄々をこねまくってもらって、それを俺が徹底的に受け止めた。二日ばかりまともに仕事にならなかったが、これも構わない。マリヤを引き取った時に覚悟していたことだ。
リーネがそこまで手が掛からなかったといって、<上の子>が楽だったからといって、下の子も同じようなやり方で上手くいくと考える方がどうにかしている。自分は、兄弟姉妹と全く同じ考え方をする人間だったか? 兄姉と同じように扱われて本当に納得がいってたか? いってなかったとしたらそれが答だろ。
子供は人間なんだよ。人間である以上、工業製品じゃねえんだから全員同じやり方をしてて同じように育つとは限らないって分かるだろうが。分からない方がどうかしてる。一人一人、接し方は変わってきて当然なんだ。
皆同じやり方をしたいというのは、親の側の、『手を抜きたい」『楽をしたい』という<甘え>でしかねえよ。
親がそうやって甘ったれてりゃ子供だってそれを見倣って当然だろうが。
『自分は甘ったれてえが子供には甘えさせない』
とか、いい歳して何言ってんだ?
そんなこんなで渋々イワンを見送ってくれたマリヤに、イワンから、
『泣き虫マリヤの冒険』
という絵本が送られてきた。これは、
『貧しい家に生まれたマリヤという女の子が、王子様に憧れて家を飛び出していろんな動物や人と出逢いながら成長し、魔法使いの魔法でお姫様の姿になって舞踏会に参加して王子様に見初められて結婚し幸せになる』
って内容の、ちょっとシンデレラ辺りを連想させる絵本だった。それをマリヤはすごく大事にしてて、誰にも触らせようとしないんだ。




