俺がマリーチカに対してしていることを
俺がマリーチカに対してしていることを自分の親にしてもらった記憶がないのなら、それが答だ。他者を妬み攻撃的になる、な。
子供も<人間>だ。人間なんだ。ここまで俺の記憶にある百十年以上の人生の中で経験したものを総合しても、その結論しか出ない。
人間を人間じゃないものとして考えたがるのは、<甘え>以外の何ものでもねえよ。
『相手は人間じゃないんだから何をやっても構わない』
と自分を正当化したいがためのな。
例え五歳のマリーチカでも、二歳のマリヤでも、人間以外の何ものでもない。
『自分に都合よく振る舞ってくれるから人間だ』
とか、心底甘ったれた考えだよな。そんな風に考えているから、自分も他の誰かから<人間じゃないもの>として扱われることを強く拒絶できねえんだよ。自分が他者に対してやってることだからよ。
背が低いとか、見た目がイケてねえとか、仕事ができねえとか、金がねえとか、そんな理由で人間扱いされないことを、自分の尊厳を蔑ろにされることを、よ。
だから俺は、現実と向き合う。こうして自分の想いが届かないことに憤って俺に八つ当たりしていたマリーチカもまぎれもない人間なんだって現実と向き合う。俺にとって都合の悪いことをしてるからってマリーチカを『人間じゃない動物なんだ!』とか言わねえ。人生経験が根本的に足りねえから自分の感情をコントロールする方法も会得できていないだけの人間なんだっていう現実と向き合うんだよ。
そうすりゃ、彼女の気持ちを蔑ろになんざできねえな。俺には。現実と向き合えずに相手を人間として扱うこともできねえ甘ったれた奴のことなんざ関係ないってんだ。
改めて俺に縋ってきたカーシャとも合わせて、俺はマリーチカを抱き締めた。二人の気持ちを、人間である二人の気持ちを、きちんと受け止める。そうしてもらえた経験があるからこそ、人間は他者を人間として敬うことができるようになるんだってのが分かったからな。
俺の場合は、俺自身の気持ちを俺自身が受け止めるようにしたからだけどよ。阿久津安斗仁王の人生経験も合わせたそれでなんとか。
そうしてたっぷり三十分以上をかけて、ようやくマリーチカは落ち着いてきたようだった。カーシャも。
面倒臭いと思うか? 『そんなことやってられるか』と思うか? そう思うのなら、自分がつらい時にも他の誰かからこうやって受け止めてもらえないことも認めるんだな。一方的に受け止めてもらえるのは、子供のうちだけだ。自分を大人だと思うなら、まず自分が他者を受け止められるようになれ。
話はそれからだ。
子供の頃にそうしてもらえなかったのなら、それについては自分の親に文句を言うこった。
他所様には関係ねえよ。




