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嘘だ……っ!!

『リーネとしてはお前のことを結婚相手とは見てないんだよ……』


俺が告げたそれに、イワンは、オイルランプのわずかな明かりだけでも見て取れるくらいに青ざめたのが分かった。そして、


「嘘だ…! 嘘だ……! 嘘だ……っ!!」


頭を振り拳を握り締め、イワンは現実を拒絶する。


そうだな。現実と向き合う姿勢を俺はこれまで彼の前で見せてきたつもりだが、


<自分にとって受け入れ難い現実>


なんてものをそう簡単に受け止められるわけじゃないのも事実であり、それ自体が<現実>ってもんだ。イワンのこの態度も、当然のものだな。これも、


<いつでも自分にとって都合よくいくわけじゃないという現実>


なんだ。


そしてイワンは、家から飛び出していってしまった。


「イワン!」


そう声を上げたのはリーネだった。気になって眠れなくて、隣の部屋で聞き耳を立てていたんだろう、レンガで壁を作っていたとはいえ、直接外に出られるようにドアも作っていたから、そこからは音もダダ漏れだっただろうしな。こちらの部屋が完成したらそのドアも外すつもりだったし。


まあそれは置いといて、


「大丈夫だ。俺が行く。リーネはカーシャ達の傍にいてやってくれ」


リーネを制して、俺はイワンの後を追った。もっとも、家を出たらすぐに月明りの下で森に入って行こうとしてるイワンの姿はすぐに見て取れた。走ることができない上に月明りしかない森の中なんてまともに動けたものじゃない。


それに、罠が仕掛けてある辺りは縄で二重三重に囲ってあるから暗くてもすぐ分かるしそれを回り込むようにして移動してるのも見て取れた。備えていてよかったとつくづく思うよ。


そして俺はイワンを追い、すぐに追いついた。


「放せっ!!」


イワンはそう言うが、さすがに今は従うわけにはいかないな。こんな夜に森の中をうろつくなんざ、ただの自殺行為だ。しかも、


「イワン……っ!」


俺の硬い声に、掴んだ彼の体がビクッとなった。だが俺は、聞き分けのないイワンに怒鳴ったんじゃない。別の気配に気付いたからだ。


「猪だ……! 動くな……!」


抑えた声でそう告げる俺に、イワンもハッとなって振り返り、改めて森の方を見た。そこに、もそもそと蠢く黒い影。


「あ……うわ……!」


さすがにイワンもそれどころじゃないことを察して、下がってくる。


「慌てるな…大声を出すな……ゆっくりだ。ゆっくりと下がれ。こっちだ……」


イワンの体を掴んだまま、俺は囁く。そしてイワンを俺の後ろに下がらせた上で、一緒にゆっくりと下がっていく。そんな俺の手に縄の感触。罠を仕掛けた場所を示す縄だ。それを掴んだまま、縄に沿うようにして移動したのだった。



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