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僕は、リーネのために

そして夜。リーネがカーシャとマリヤとマリーチカを寝かしつけてくれた後で、俺はイワンを、リーネから話を聞いた時よりは少し作業が進んだ新しい部屋に連れていって、やはりオイルランプの下で対面した。


「なんだよ。改まって……」


イワンが訝し気な様子で訊いてくる。だから俺は、そんなイワンにも、


「イワンは、リーネと結婚したいのか?」


改めて確認する。と、彼は、


「もちろんだよ。僕はリーネを愛してる。僕が彼女を幸せにする……!」


真っ直ぐ視線を向けてきっぱりと言った。いやはや、清々しいな。ここまで愛してもらえるとか、リーネも本望だろう。しかし、


「それは、リーネの気持ちを本当に考えた上でのことか? イワンの気持ちを一方的にリーネに押し付けてるだけじゃないと、言えるのか……?」


俺は、敢えて声のトーンを抑えつつ、淡々と、事務的なくらいに乾いた感じを意識して問い掛ける。そんな俺の様子に、


「……っ!?」


イワンはギョッとなる。そして、視線を逸らしつつも、


「……そうだよ。リーネも僕のことを愛してくれてるはずなんだ。僕のことをちゃんと見てくれる。話を聞いてくれる。僕が力仕事ができないこともバカにしたりしない。僕の描く絵本を褒めてくれるんだ……! 僕は、リーネのために絵本を描いてるんだ……!」


なんとも真っ直ぐで、くすぐったくなるような青臭い愛の告白だった。だが、


<子供の理屈>


だな……


『リーネも僕のことを愛してくれてるはずなんだ』


と言いつつ、その根拠は、リーネが母親視線や姉視線でイワンを一人の人間として敬ってくれてることを表してるものでしかない。決して、


『異性としてイワンを見ている』


証拠にはなりえないものなんだ。


愛してくれてるのは事実だと思う。でもそれはあくまで、我が子や可愛い弟への気持ちと何ら変わるところがない。恋愛対象として見てなくてもできることなんだよ。


そして、利口なイワンも察してしまったようだ。


「……そうじゃ……ないの……?」


縋るような目で俺を見ながら問い掛けてくる。本人がそれを察してしまったのなら、もう回りくどいことを言う必要もない。


「イワン……リーネは確かにお前を愛してくれてる。でもそれは、我が子や可愛い弟に対するそれなんだ。リーネとしてはお前のことを結婚相手とは見てないんだよ……」


非常に残酷ではあるものの、無駄にこれからも期待を抱かせるようなことをするのはかえって傷口を広げることになるだろうと考え、俺はきっぱりと告げたのだった。



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