リーネのことは……
正直、ここまで来たら白状したのも同然だろうが、それでも俺は敢えて訊く。きちんと言質を取らなきゃならんからな。
「四の五の言ってないではっきりしろ! リーネと結婚したいと思ってるのか思ってないのか!? 俺が訊いてるのはそれだけだ!」
決して大きな声じゃないが、普段は高圧的な態度は取らないようにしてる俺の強い言葉に、トーイもさすがにここは曖昧な返事では許されないと察したか、
「……リーネのことは……好きだ……結婚…したい……」
本音をついにゲロった。よしよし。いい子だ。
「分かった。きつい言い方をして済まなかった。でもな、リーネにもトーイにも後悔するような選択はしてほしくないんだよ。リーネはトーイが好き。トーイもリーネが好き。しかも二人とも、血は繋がってなくても俺の子供みたいなもんだからな。一緒に育って裏も表もだいたい知ってる。リーネの屁の音も臭いも知ってるだろう? だったら結婚してから『こんな奴だとは思わなかった!』ってのがないよな。それが大事なんだ。結婚して<家族>になるんだ。家族の前でまで着飾って気を抜くこともできないとか、嫌だろ? うちは安心できる家だったんじゃないか? そうじゃない家にいたいと思うか?」
俺の言葉に、
「……まあ…な……」
トーイも苦笑いだ。その上で俺は、
「ただしこのことは、イワンにもちゃんと納得してもらわなきゃいけないし、もちろんカーシャとマリーチカにもだ。まあ、納得はできないかもしれないが、少なくとも互いの本音ははっきりさせておく必要があると思う。これがアーク家流だ」
とも告げた。
結果として俺が強引に最終決断を行うことになる可能性はある。お互いに譲れない部分がある時には、単なる<話し合い>だけじゃ決着がつかない場合もあるのは事実だと俺も思う。だからその時には、たとえ恨まれても俺が決断する。相談もせずに勝手に決めることはしたくないものの、いざとなれば、な。
アーク家の家長としてのそれが責務だ。
それに、リーネやトーイやイワンやカーシャやマリーチカも、いつかこういう決断をしなきゃならなくなる時もあるだろう。そのための<手本>を俺は示さなきゃならない。そして、必要とあらば恨まれなきゃいけない時もあると、教えなきゃいけない。
人生ってのは確かに<綺麗事>だけじゃ済まねえ。どれほどお互いに納得できる選択をしようとしても無理な時はある。だから<汚れ役><嫌われ役><恨まれ役>も必要になる。
この事実を教えておかないと、かえって歪んだ人間になるだろうなって実感はあるんだよ。
でもそのためには、徹底的にお互いに本音を提示しなきゃならないが。




