単刀直入に尋ねる
『リーネ、起きてるか……?』
俺が声を潜めつつ言うと、
「はい、なんでしょう?」
返事が返ってきた。
「イワンのことで相談があるんだ」
俺の言葉に、彼女はベッドからそっと下りてきてくれた。そして二人で、まだ取り敢えず仮の壁と屋根を架けただけの新しい部屋に移り、オイルランプの薄明りの下、二人で椅子に掛けた。隙間だらけの仮の壁から、虫の声が届いてくる。
神妙な面持ちで俺を見る彼女に、
「リーネ。正直な今の気持ちを訊きたいんだが、イワンのことはどう思ってるんだ?」
回りくどい言い方をしても意味がないので、単刀直入に尋ねる。すると彼女は、少し視線を逸らして思案するような様子を見せた後、俺に向き直り、
「イワンのことは、私も好きです。大切に思ってます。彼は私をとても大事に想ってくれてますから……」
そう、囁くように口にした。しかし続けて、
「でも……」
と漏らして、視線を下げて、何度か口をかすかに動かした後、
「私は、トーイが好きなんです……」
と……
「そうか……」
何となく予感はあった。イワンのことも大切に想ってくれてるのは間違いないと俺も感じてたが、同時に、彼のことをそういう目で見てない、異性として意識してないという印象は、正直言ってあった。
「ごめんなさい……」
こうして改まって話をしようとした俺の意図を察して、彼女はそう頭を下げた。だが、うん、
「いや、リーネは悪くない。『人を好きになる』ってのは、理屈じゃない。イワンがリーネを好きなのも、リーネがトーイを好きなのも、それは誰にも責められるべきことじゃないんだ」
俺はきっぱりとそう告げた。そうだ。誰が誰を好きになるかなんざ、他者から誘導されるべきでも強要されるべきでもない。それは事実だと思う。リーネのこともイワンのことも人間として扱うなら、当然だ。人間なんだからな。ただ……
「ただ……なかなか上手くいかんもんだな……」
「ごめんなさい……」
再び謝るリーネの頭を、俺はそっと撫でた。彼女も、イワンの気持ちを考えると無下にはできなかったんだと分かる。
「イワンのことを好きになろうとしてくれてたんだろう?」
改めて問い掛けると、
「はい……」
彼女は力なく頷いた。本当に優しい子だよ。
いやはや、上手くいかんもんだ。
これが村の連中だと、イワンでもトーイでも、適当な方をそれぞれの気持ちなんざお構いなしでくっつけようとするだろう。そういう社会だ。それが今の常識なんだ。
でもな、俺は、リーネのこともイワンのこともトーイのことも人間だと思うからこそ、俺の勝手で決めたくないんだよ。
 




