決して悪い面ばかりってわけじゃ
こうしてマリーチカを迎えたわけだが、そうなるとさすがに家が手狭になってきた。ベッドはもう、元からあったものは俺とトーイとイワンの三人で寝て、リーネとカーシャとマリヤが寝る用のも以前に増築した部屋に新しく用意してたんだが、家自体がとにかく狭く感じられるようになった。
だから俺は、鍛冶の仕事の一部をトーイに任せて、家の増築に取り掛かる。村の職人に頼んでもいいんだが、なるべく村の連中には足を踏み入れてもらいたくないんだ。
<子供を慰み物にしている変態>
<わざわざ村から離れたところに住んでる変わり者>
という評価のおかげで向こうからは近付いてこないしな。てなわけで、そんな風に思われてることも決して悪い面ばかりってわけじゃねえんだよ。
それに俺自身、ここまで散々、家の増築やら修繕やらを繰り返してきたことでかなり要領を掴んだから、リーネやイワンに手伝ってもらえればさほど苦労もしない。
そんな中でリーネはもう実年齢で二十七になった。いよいよ三十が目前だ。それでも本人には焦ってるような様子はない。
「私にはもう家庭もありますし子供もいますから」
と言ってくれている。家の中のことを切り盛りしてくれて、マリヤのことはそれこそ自分の娘のように世話してくれたからだろうか。
<アーク家を支える者>
の一人としてそれを誇りに思ってくれてるそうだ。それに、年齢の割に若く見えるというのもあるしな。まだ二十代前半って印象はある。体も小さいし。
なのに、部屋の増築も手伝ってくれる。イワンも、重い物は持てないが、リーネと一緒にできる範囲で手伝ってくれた。そんなリーネとイワンの姿が、
<年上の妻と若い夫>
という風にも見えてくる。正直、もうそれでいいような気がしてくる。ただ、まだもう一つ、なにか決め手に欠けるのか、リーネは踏みきれていないようだ。
『別に結婚なんかしなくても』
と思ってるのかもしれないし俺もそれでいいんだが、イワンとしては、
「なあ、そろそろいいんじゃないか? 僕だってもう大人だよ?」
俺の手伝いをしながらリーネに対してそんなことを囁いてるのが聞こえてしまったりもする。
イワンとしては真剣なんだっていうのが分かる。イワンのことが好きなマリヤも、リーネのことは、
「мама♡」
って呼んでくれてるからな。たぶん二人が結婚したとしても、そのまま母親と父親って感じになってくれるだろう。
なのに、リーネは、
「そうね。イワンももう立派に大人だよね」
とはぐらかして煮え切らない。だから俺は、夜、子供達が寝静まった後に、彼女達が寝ている部屋を覗いて、
「リーネ、起きてるか……?」
声を掛けたのだった。




