一目惚れ
どうやらトーイに一目惚れしたらしいマリーチカは、実年齢は三歳くらいでありながらも自分から進んで<お使い>に出るようになったらしい。
何か問題になるようならちょっとアレだが、トーイも別に嫌がってるわけじゃなさそうだから取り敢えず様子見というところだな。
それに、マリーチカはまだ子供、と言うか幼児だ。異性として意識するような相手じゃない。マリーチカを異性として意識するなら、カーシャに対してもそういう目で見てる様子があってもおかしくないだろうに、トーイがカーシャをこれまで<そういう目>で見ていた気配はまったくない。
どちらかと言えばリーネに対しての方が意識している印象がある。そう、あくまで俺の印象だが、トーイも実はリーネのことが好きで、でもイワンがリーネのことを『好きだ!』と公言してるから遠慮してるのかもしれないという気がしないでもない。
まあ、思春期の男子からすればリーネはとても魅力的だろう。こっちの社会では<いかず後家BBA>という評価になるとしても、同じ年代の村の女と比べてもむしろ若く見えるし。まあそれは、
『結婚して子供がいて所帯じみててくたびれてるってのがない』
からかもしれないが。いずれにせよ、
<綺麗な大人の女性>
って感じはあるな。うん、思春期男子が魅了されても当然か。
トーイとイワンがリーネを巡って<恋の鞘当て>をしたら、そういうのが好きな奴にはウケるのかもしれないものの、別にそんなのに応えてやらなきゃならない義理もねえし。俺としちゃ、その辺りを詳細に描写する気はねえよ。どっちかと言うと、イワンがこっそりリーネの肌着を持ち出して、外で匂いを嗅いでたり、『思春期だなあ』ってな振る舞いをしてたりすることの方をしっかりと詳しく描写したいね。
だが、イワン自身は気付かれてないと思ってるみたいだから、それをやるとさすがに可哀想だしな。こういうのは、
『見て見ぬふり』
ってのが大事だと思う。思春期なんだからそりゃ興味があって当然だろ。<おかず>とか見付けても、部屋の臭いに気付いても、そっとしておいてやれ。ましてや興味を向けてる相手が<年上>ならそれこそ健全じゃないか。
それに、そこで大事なのが、
『相手を人間として敬う』
態度が見えるかどうかということだと俺は思う。相手を人間だとちゃんと思ってれば、嫌がることとかは控えようって気になるだろうからな。人間だと思ってねえから、自分の思い通りになる人形か何かだと思ってるから、平気で傷付けるようなマネもできるんだろ?
だから俺は、リーネのこともトーイのこともイワンのこともカーシャのこともマリヤのことも人間として接するんだよ。




