ユーリイとマリーチカ
ただ、アンナのことはそうやってあしらったが、ユーリイとマリーチカは逆に俺に対して好印象を持ったらしい。納品のために村に訪れた時とかに顔を合わせると、
「こんにちは」
と挨拶してくるようになった。どうやら、他の大人達とは違うものを感じ取ったようだ。最初はアンナが未練がましく子供を使って同情を引こうとしてるのかとも思ったが、当のアンナの方は俺が紹介した爺さんの息子とよろしくやってるようでな。やれやれ、大したタマだよ。
しかし、爺さんとその息子は、ユーリイとマリーチカについては、村の他の大人と同じように二人をいいように使おうとしてるみたいではある。
二人は、実の父親の方にもかなり手酷く扱われたようで、パッと見ただけでも体のあちこちに傷跡や痣があった。だからこそ、俺がトーイやカーシャやマリヤに対して丁寧に接してることに惹かれたのかもしれない。
だが、『要らない』ということであれば引き取りもするとしても、アンナも爺さんの息子も、ちょうどいい家畜が手に入ったわけで、今のところ手放すつもりはなさそうだ。だから申し訳ないが、敢えて俺からは口出ししない。
『薄情だ!』って? ああそうだよ。薄情だ。冷酷だ。ヒドイ奴だ。好きに言ってくれて構わない。けどな、俺は<神様>でもねえし<聖人君子>でもねえんだよ。俺の下に来ることになった子供以外まで救ってやれるだけの力はねえ。そんなもんがあったらとっくに村の子供ら全員救ってるっての!
……救ってるっての……!
ただ、マリーチカは、ユーリイとは別の意味で俺達に近付こうとしてる感じがあった。
「こんにちは、トーイ」
母親に言われて代わりに注文の品を受け取りに来たらしいマリーチカが、トーイに挨拶する。けれどその顔は、明らかに、
『……メスの顔だな……』
と思わされた。まだ四歳(実年齢は三歳?)だというのに、マリーチカは、ませたことにトーイに一目惚れしたようだ。
「はい……」
トーイが品物を渡すと、
「ありがとう♡」
とまあ、嬉しそうなこと。
「ああ…うん……仕事だから……」
トーイも彼女が他の連中とは違う目で自分を見てることに気付いたか、戸惑った様子だ。だが、悪い気はしていないようにも見える。
するとカーシャが、
「トーイ、マリーチカのこと、好き?」
なんともダイレクトアタックなことを訊いてくる。これにはトーイも、
「あ、いや……! 好きとか…オレ、そういうのは……! お客さんだし……」
しどろもどろだな。ただし、この反応自体は、俺の目には、
『図星を指された』
というよりは単純にこういうことに慣れていないというだけのようにも見えた気がした。そりゃそうか。トーイからすればマリーチカはまだ<子供>だもんな。




