金貰ったって関わり合いになりたくねえ
思いがけない形でアンナと再会し、ユーリイとマリーチカを紹介されて、俺はその振る舞いの裏に隠された、
『私と結婚して養って』
という意図を察してしまった。旦那のところから逃げてきたのも、身内も顔見知りも誰もいなくなったこの村に帰ってきたのも、さては俺がこの村で商売してるってのを知ったからだな?
まったく、ふざけた女だぜ。
だが俺は、敢えてそれを表には出さなかった。その代わり、近頃、体が言うことを聞かなくなってきて畑仕事がつらくなってきたっていう爺さんを紹介して、その手伝いをすることで生活できるように手配しただけだ。その爺さんには息子もいたが、それだけじゃ手が足りなかったしな。
「ありがとう、助かった……」
そう礼を口にしたアンナだったが、明らかに『当てが外れた』って表情をしてるのも俺には分かっちまった。
別にアンナが他の男と結婚したからとか、そういうことじゃない。元々俺は、アンナのことは嫌いじゃないものの、一緒に暮らしていく相手としては違う気がしてたってのもあるんだよ。その理由をこうして再会して改めて実感した。
アンナは、阿久津安斗仁王の元女房に似てるんだ。タイプが。だからなんとなく避けちまったというのもあるってのを思い知らされたんだ。
「私が他の人のところに行ったからダメなの……?」
なんてことも訊いてきたが、それがまたあざとい感じでな。正直、虫唾が走ったりも。
「違う。悪いのはお前じゃない。俺がお前のことを好きになれないのが悪いだけだ」
と言っておいた。アンナも、妥協で阿久津安斗仁王と結婚した元女房と同じで、結婚前はしおらしい態度も見せるが、一度冷めると豹変するのは分かってた。だから俺と結婚してしばらくしたら本性を見せるだろう。その本性を見ても好きでいられる相手じゃないんだよ。いや、元々そこまで好きじゃねえし。嫌いでもねえけどよ。
ここで『焼け木杭に火がつく』ってなりゃ、ドロドロした男と女のあれこれが好きな奴にはウケるのかもしれねえが、悪いな。俺はどうでもいい赤の他人のいいようになりたいとは思わねえんだ。
ただまあ、あんまり邪険にするのも世知辛いってもんだろ? それにアンナだって俺にとっちゃ<客>になるはずだしな。
事実、後でナイフやら鍋やら買ってくれたしよ。
そういうことだ。商売してる人間にとって<他所様>は、
<客になる可能性のある存在>
なんだよ。もちろん全員が全員そうなるわけじゃねえし、中にゃ、
『逆に金貰ったって関わり合いになりたくねえ』
のもいるけどな。でも、ここの村の連中もアンナも、幸い、そこまでじゃなかったってことだ。




