ちょっと予定が変わっちまったことも
そんな調子でまあまあ上手くやってるんだが、実はマリヤが来たことでちょっと予定が変わっちまった部分もある。それが、
『鍛冶の仕事の一部をトーイに任せて、村での納品と注文を取るのは俺とカーシャだけでやる』
って構想だ。でも、マリヤが来たことで、俺がマリヤのための乳をもらいに行ってる間にトーイに納品と注文を取るのをやってもらってるからな。マリヤが乳離れするまでは延期だ。
これもまた、
『自分の思い通りにならない』
ってことの一つだろ。でも、だからってマリヤに八つ当たりするのは間違ってるだろ? 何しろ彼女を引き取ると決めたのは俺なんだからな。
まあ、リーネの乳が出るなら、リーネのを与えてもらってもいいんだけどよ。出ねえもんは出ねえんだから仕方ない。
マリヤはカーシャと違って目も見えてるみてえだし、取り敢えず今のところは健康そのものって感じだ。
だから、思い通りにはならないこともありつつも、楽しくやってるんだよ。
だが、そんな俺の前に現れたのは……
「アンナ……」
「久しぶりね、トニー……」
<アンナ>。俺が昔住んでた村で、
『結婚してあげてもいいよ』
みたいなことを言ってきた幼馴染の女。
「生きてたのか。ここであれがあった時にてっきり死んだものと思ってた……」
<あれ>。この村ができる以前に、元々ここにいた連中と、戦争を避けるために避難してきた連中とで、しゃれにならねえ殺し合いがあったらしくてほとんどが死んだ事件。確かに俺の両親の死体は見たが、アンナのは確認してなかった。しかも何人かは逃げ延びたらしいのも分かってたから、別に生きてても不思議じゃないが、まさか本当に生きてたとは……
戸惑う俺にアンナは、
「あの時、私は隣村の方に逃げたの。そこで知り合った男性と結婚したんだけど、それがとんでもないロクデナシでね。酒を飲んじゃ殴ったり蹴ったりだったから、嫌になって逃げだしたんだ」
と話した。
「なるほどね……それでそっちはお前の子供か……?」
アンナの後ろに隠れるようにして、五歳くらいの男の子と三歳くらいの女の子という子供二人が、明らかに俺を警戒してる目で睨み付けてきた。まあ、<大人の男>に対して不信感があるんだろう。特に自分の父親と同年代くらいの男にはな。
「ユーリイとマリーチカよ。ほら、ご挨拶して」
アンナに促されて二人は間違いなく嫌々、
「こんにちは……」
声を揃えて挨拶してきた。
「こんにちは」
俺は膝を着いて視線を合わせてそう応えたが、ユーリイとマリーチカをこうやって紹介したアンナの<下心>については察してしまったよ。
アンナの様子からは、俺と結婚して養ってもらう気なのが見え見えだったんだ。




