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どんな人生を送ったんだろう……?

ここじゃまだ、<会社>ってもんが存在しない、いや、街に行きゃあるのかもしれないが。確かに少なくとも何らかの<工房>とかはあるはずだし、イワンの写本に立派な装丁を施す<装丁屋>があるわけだからそこには<従業員>とかもいるにしても、麓の村には関係ねえ話だ。


だから『働きに出る』ってのがまあまだ一般的とは言えねえな。


となると、別に気にする必要もないとしても、俺は自分のことも自分でできねえような人間を送り出そうとも思わねえよ。


<自分のことも自分でできないような奴>


って、なんでそんなのができるんだ? メシの用意も洗濯も掃除も自分じゃまともにできねえ奴もいるよな? 取り敢えず仕事だけできりゃまあ職場に置いとく分にゃまだいいにしても、そんな奴、潰しが効かねえだろ。<その仕事>しかできなかったりしねえか? 他に優秀なのが確保できたから他所に異動させようとしたら、てめえのやり慣れたそれじゃなきゃロクに仕事もできやしねえ。そんな奴をなんででかい顔して社会に送り出せんだよ?


『まだ仕事ができるだけマシだろ!』


とか言うかもしれねえが、そりゃつまり、<決まった仕事しかできねえポンコツ>って言ってるようなもんじゃねえか。


ましてやその仕事もできねえ奴を、無責任に社会に放り出すんじゃねえよ。親のヘマの尻拭いをするのが社会の役目ってわけじゃねえんだからよ。


せめて簡単な仕事くらいまともにこなせるようにしてから送り出しやがれ。


これもな。普通の人間だったら、得手不得手はあっても何かできるもんはあるだろ? なのにそれができないってのは、人間扱いされなかったからじゃねえのかってえ気がする。本当に、封筒に書類を詰めるだけの仕事でもいいじゃねえか。それだけで生活できねえなら無理に家を追い出す必要もねえじゃねえか。てめえが勝手にこの世に送り出したんだろう? なら責任持てや。


阿久津安斗仁王(あんとにお)がその責任を持たなかったからこその実感だ。


『ゆかりはあの後、どんな人生を送ったんだろう……?』


リーネ達の姿を見るからこそ、ついついそんなことを思ってしまう。今さら取り返しはつかねえってのによ……


だからこそ、今度は後悔したくねえ。俺の子供達ならちゃんと生きていってくれるって思いたい。思えるような実感を得てからくたばりたい。


そのために俺は努力する。リーネを、トーイを、イワンを、カーシャを、納得いくように育てたいんだ。


いや、『育てたい』ってのがもう思い上がりか。何度も言ってるように、俺のやってることを真似しただけで普通に生きていけるように手本を示したいんだよ。


『すまねえ、ゆかり……俺はお前にその手本を示してやってなかったよな……』








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