どんなブラック企業も真っ青な体制
俺は家のことの多くをリーネに任せてるが、別にすべてやってもらってるわけじゃねえぞ? 俺の仕事が終わったら、家のこともする。
当たり前じゃねえか。仕事だけしてりゃいいんなら結婚なんざする必要もねえ。独身は仕事してねえのかよ? そうじゃねえだろ? 結婚なんかしなくても仕事はできるよなあ?
てことは、<仕事>と<家庭を守る役目>ってのは、別の話だろうが。特に子供が生まれりゃやらなきゃいけないことは圧倒的に増える。二十四時間体制でしかも無休だ。どんなブラック企業も真っ青な体制で挑まなきゃいけねえ。
俺も、カーシャがここに来た時にはそれを味わったよ。リーネにも手伝ってもらえたからまだ何とかなったが、一人で仕事もこなしながらってなったらそりゃもう正気を保ってられた自信がねえ。
何しろ夜泣きとかなんざそれこそいつ始まるか分からねえ。カーシャが、
「ふえ…」
と声を上げたら飛び起きてあやした。俺が勝手に引き取ってきたんだからリーネに押し付けるわけにもいかねえしな。これは、離乳食が始まってからも続いた。それを誰か一人に全部押し付けるとか、正気か? てめえはそれを全部一人でやれんのかよ? やれるってんならやってみせろや。十人中何人それができんのか見物だぜ。
言っとくが、一日二日の話じゃねえぞ? 二年くらいは丸々やってもらわねえとな。じゃなきゃ『できる』とは言わねえよ。
阿久津安斗仁王はやらなかったけどな。アントニオ・アークも、リーネの助けがなきゃできなかった。
そう、できてねえんだよ。だから、リーネにも丸投げしない。当たり前じゃねえか。自分ができてねえんだから。
だいたいよお。家事と育児と全部ってなったら、その負担は<仕事>どころじゃねえんだぜ? 拘束時間は二十四時間。給料なし。休日なし。もちろん有給休暇もねえ。そんな会社、労基が黙ってねえよなあ? それが『仕事より楽』だってか? ならお前がやれよ。女房に働いてもらってお前がやれ。楽なんだろ?
でも、阿久津安斗仁王はやらなかったんだよなあ。やりたがらなかったんだよなあ。『楽』なのにだぜ? なんでやろうとしなかったんだろうなあ?
なるほど、『家事だけ』なら、阿久津安斗仁王がいた世界の方が便利な道具がいっぱいあってアントニオ・アークが暮らしてる世界よりゃ楽なのは事実かもしれねえ。育児についても便利な道具はいろいろあるかもしれねえ。けどな、実際やってもみねえ奴が楽かどうかを語るんじゃねえよ。
仕事でもあるだろうが。同じ仕事量をこなしてるはずが、
『要領よくやってる奴は楽してるように見える』
ってのがよ。




