自分もこの家庭を守らなきゃ!
前世でも、こうやって子供が親の仕事を自ら継ごうとすることについて、
『偉い!』
とか称賛する奴もいたが、俺は、今、この世界に生きているからこそいささか複雑な気持ちにもなる。嬉しい反面、
『なんでこんな時分から大人になろうとしなきゃいけないんだろうな……』
と思っちまうんだよ。
何しろトーイはまだ、実年齢じゃ六歳くらいだぞ? ようやく小学校の一年生になるってえ頃だ。それがなんで賢し気に大人ぶらなきゃいけないんだよ。もっとバカみたいに遊び回ってていいはずだろうが……
なのに、村でも子供が楽し気に遊んでる姿なんてそうそう見られねえ。遊んでたら、
『なにサボってんだ! 仕事しろ!!』
と怒鳴られるんだよ。なにしろ<家畜>だからな。
俺はトーイを家畜として使うつもりは毛頭ねえ。トーイにも手伝ってもらわなきゃ生活が成り立たないから、無理のない範囲でって思ってるだけだ。
『やっぱ不健全だろ……こんな社会……』
とは正直思う。思うんだが、
「はい! どうぞ!」
普段は無口なトーイが、精一杯の愛想を振りまいて品物を渡し代金や物品を受け取ってる姿を見ると、本人が、
『自分もこの家庭を守らなきゃ!』
って思ってくれてるのが伝わってきちまってなあ……
ちくしょう……泣かせるじゃねえか……
だからこそ、俺はトーイを敬うし、労わなきゃいけないと思う。だがそれは決して、
『トーイがこうやって仕事してくれるから』
じゃねえ。トーイ自身が俺達の家庭を守ろうと思ってくれてることそのものが嬉しいのと同時に切ないからだよ。
ただそれは、俺が、
<子供にとっても守りたいと思える家庭>
を築けているという証拠でもある。そうじゃなきゃ、幼い頃のアントニオ・アークと同じように、
『こんな奴ら、いつか殺してやる』
と思ってたか、
『さっさとこんな家、出て行きてえ』
と思ってただろうからな。
まだ十にもならねえような子供がそんな風に思う家って、どうよ? そんな家庭は<幸せ>なのかよ?
少なくとも俺にはそうは思えねえし、俺自身、幸せなんかじゃなかった。自分の親を、
『殺してえ』
とか子供が思うなんてのは、まともじゃないだろ。自分の子供にそんな風に思われる親が立派なわけねえだろ。俺自身がそんな親だったら、俺は自分を立派だとか、一ミリも思わねえな。
「お、ぼうず! 字が書けるのか? すげえな!」
受けた注文を炭で木片に書き込んでるトーイを見て、客が感心する。と、
「ありがとうございます」
トーイは照れくさそうに目を逸らしながら頭を下げる。だから俺も、
「すげえだろ。自慢の息子なんだ!」
思わずにやけながら言ったのだった。
 




