カーシャの実の両親
一方、村で納品と新たな注文を受けに行ってた俺はカーシャの<能力>に改めて舌を巻いてた。
荷車に座ったカーシャは、
「ユングおじさんがくる」
「ラーラおばさんがくる」
と、実際に客が顔を出す前に俺に教えてくれた、しかも、声じゃなくて足音とかでそれぞれを認識してて名前まで覚えてるんだ。
その中の、<ミコラ>と<ハーニャ>ってのがカーシャの実の両親なんだが、二人とも次の子供も作ってカーシャのことなんざすっかり忘れちまったような感じだった。実際に忘れてるわけじゃねえんだろうが、向こうとしてもそれを口に出して蒸し返すようなことになったらかなわねえってんで、無視してんだろ。
まあ、変に執着されても面倒だからそれでいいんだけどよ。カーシャはもう俺の娘だ。血の繋がりなんざ糞の役にも立たないこの世界じゃ気にするだけ無駄だ。
で、ミコラには新しい鎌を納品して代わりに半分くらいにまですり減っちまった古い鎌を受け取りつつ、
「どうだい? 畑の方は?」
「今年は悪くねえ。収穫を楽しみにしててくれ」
とか、<社交辞令>全開でやり取りをする。カーシャのことでは思うところもありつつ、だからって責めたところで考えを改めるわけねえからな。目も見えねえような子供はさっさと『潰して』新しい子供を作るってのがこの世界じゃ常識だし、誰もそれを咎めねえ。むしろ、
『早々に楽してやってよかった』
と褒められたりもするんだ。それが当たり前なんだよ。俺がやってることの方が頭おかしいんだ。
去り際、
「……」
ミコラが明らかに憐れむような視線をカーシャに向けたのを、俺は見逃さなかった。
<変態に慰み物にされてるカーシャ>
を憐みの目で見たって感じだろうな。村じゃ俺はすっかり、
<鍛冶屋としては腕もいいが、その裏で子供を集めて慰み物にしてる変質者>
ってえ評価みてえだし。別にそれもどうでもいい。物証もねえ確証もねえことを妄想だけで決め付けてレッテル貼りするような奴らなんざまともに相手にする必要もねえよ。
俺の機嫌を損ねたら自分らが困るってんで表向きは気にしてねえフリしてんのは向こうだしな。
と、その時、
「тато、おしっこ」
カーシャが声を上げた。
「おう、分かった」
俺は応えつつ、<おまる>を用意して<衝立>で荷車の上に簡易のトイレを作った。カーシャはその中でおまるに用を足す。
それが済むと、おまるを手に道端に軽く穴を掘ってカーシャのおしっこを捨て、埋め戻す。
まあこれがこの辺りじゃ普通だ。排泄物はおまるにやって畑の近くとかに穴を掘ってそこに捨てて燃やし、埋める。
そうして何年かしたらそこの土を畑に撒くそうだ。
<堆肥>の一種ってことなんだろうな。




