ただで仕事やらせようとか
俺は念押しするように、こうも言う。
「結局、自分の決断に自分で責任を負えるようになるのが大事なんだと思う。自分が勝手に子供をこの世に送り出しておいて、やれ『生んでやった』だの『育ててやってる』だのってのは、『自分の決断に自分で責任を負ってる』と言えると思うか? 子供には選択の余地なんかないんだぞ? その親の下に生まれてくるかどうかは、自分じゃ選べないんだ」
するとリーネが、
「でも、人は生まれてくる前に神様に『どの親のところに行きたい?』と訊かれるとも言われてますよね?」
と口にした。そうだ。この世界の親が子供に言い聞かせる話の一つだ。だが、俺は問う。
「ああ、そんな風に言われてるな。けど、リーネは覚えてるか? 自分が生まれる前にそんなこと訊かれたって」
その問いに、彼女は、
「いいえ……」
と答えた。それを確認し、
「トーイはどうだ? そんな覚えあるか?」
訊くと、トーイも、
「……」
黙ったまま首を横に振った。さらに、
「イワンはどうだ? 神様にそんなこと訊かれたって覚えてるか?」
訊いても、イワンは、
「ううん……」
首を横に振る。だから、
「だよな。俺もそんなこと訊かれた覚えはない。それが答だ。神様はいるんだとしても、少なくとも神様にそんなことを聞かれた覚えはないはずだ。なにより俺は、自分の選択や決断を神様の所為にして言い逃れるつもりもない。自分の選択や決断を自分以外の誰かの所為にしてて、責任を負ってるとは言えないな」
ときっぱりと言った。しかしその一方で、
「ただし、仕事についてはちょっと事情が違う。仕事の場合には相手にもだいたい選ぶ機会がある。そいつから物を買うかどうかを決める機会がな。他の誰かから買うって機会がまああるはずなんだ。
確かに麓の村の連中にとっては俺しか鍛冶屋がいないから俺から買うしかない状態は続いてるけどよ、それが嫌なら誰かが鍛冶屋になればいい。俺はたまたま父親が鍛冶屋だったから鍛冶屋になったとはいえ、別に親が鍛冶屋じゃなくちゃ鍛冶屋になれないってわけでもないんだ。なろうと思えば誰でもなれる。俺がいるから俺にやらせりゃいいと思ってるだけだ。
だから、『俺から買う』って当人が決めたんだからそれについて対価を払うのは当然だ。子供を生むのとはその点でまったく違う。仕事の場合は、きっちり<見返り>は要求するべきなんだ」
とも語っておく。それを知っててもらわないと、自分がいいように利用されることもそうだが、狡い奴はこれで誰かをいいように利用したりするからな。それをさせないためにも教えなきゃいけないんだ。
仕事にはちゃんとした対価が支払われるべきだってよ。
このことを親から教わってない奴が、『友達だろ』とか言ってただで仕事やらせようとかするんだろ。




