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文字の形

カーシャは目が見えねえ。だから文字を覚えることは、今の時点ではできるあてがなかった。前世じゃ<点字>とかいうものもあったものの、ここにゃまだそんなものは発明されてねえしな。


でも、リーネが、


「じゃあ、木の板に文字の形に傷を付けてそれを触ってもらったらどうでしょうか?」


と口にして、


「それだ!」


俺もハッとなった。なるべく表面を滑らかにした板に、大釘で傷を付けて、その傷を指でなぞることで、文字の形をカーシャに理解してもらうんだ。


そして今、まさにそれを実践している。


а(アー)б(ベー)в(ヴェー)г(ヘー)……」


って感じでな。さすがにまだ習熟とはいかないものの、カーシャも嫌がるでもなくやってくれて、特に<тато(タート)>=パパについてはもう覚えてくれている。


しかも、目が見えてないのに、ペンを持たせると割ときれいに『тато(タート)』と書いてくれるんだ。


まったく、人間の能力って大したものだよ。


だから俺は、リーネ達に語るんだ。


「カーシャも、村に置いといたら、たぶん、殺されていただろうな。でも、それ自体は仕方のないことだと思う。村の連中にはカーシャは育てられない。カーシャを育てる方法が今の村の連中には分からないんだ。たとえ生かされたとしてもきっと『死んだ方がマシだ』と思うような人生を送っていただろうし。


でも、俺は、カーシャを生かす方法を知ってた。それがあるからこそ俺が引き取った。俺の手の届くところにカーシャがいたからだ。なけりゃ俺も引き取ってない。俺は聖人でも何でもない。できるからやってるだけなんだ。


他の人間にそれを期待するな。期待して、それでできないからって勝手に失望するな。期待を寄せるというのは身勝手な押し付けだ。そういうのは、できる人間がやればいいんだ。自分の責任においてな」


これも大事なことだと思う。カーシャを生かしてやれないからって勝手に村の連中を悪人扱いするのは違うと、今の俺なら分かる。今の社会じゃ、よっぽど分かってる人間でないと無理なんだよ。それか、とんでもなく肝の据わった器の大きな人間でないとな。普通の人間にゃ無理なんだ。できないことをやらせようとしてできないからって悪人扱いとか、何様だ?


無論、村の連中が善人でないのも事実だけどな。ただ、子供を家畜扱いするのも今のこの世界じゃそっちが当たり前なんだから、どんなに許せなくたって腹が立ったって、別に悪人ってわけじゃねえんだよ。そっちが普通なんだから。


ただ、現実ってもんを理解できてねえのは事実ではある。


『子供は家畜じゃねえ。人間だ』


っていう現実がな。その現実と向き合う余裕が今のこの世界にはねえんだ。



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