幼い子供あるある
正直、イワンはうちじゃ俺に次いで稼いでる。リーネやトーイの写本は、いまだに銀貨百でしか売れねえそうだしな。しかもトーイは最近、写本をしてない。勉強そのものもサボってる。意欲が失われちまってるようだ。代わりに、延々と薪割りをしたり家の補修を手伝ったりしてくれてる。だから怠けたいってわけじゃなさそうではある。とにかく勉強に対して興味が失せちまった感じか。
でもまあ、それこそ小学校低学年くらいの読み書き算術くらいはすでにできるようになってるから、たぶん、この時点で村の大人連中と同等程度の学力はあると思うけどな。
で、それはさておいて、次はカーシャだ。と言ってもまだ三歳にもなってないカーシャには、さすがに難しい話はできねえ。でも、
「カーシャ、татоとけっこんする♡」
とか嬉しいことを言い出してくれてる。それが、
<幼い子供あるある>
な一時の気まぐれでも、そう言ってもらえる程度には好かれてるってことだろうから、
「ありがとう♡ カーシャは可愛いな♡」
とメロメロになっちまう。もっとも、今は食事の後で俺達が難しい話をしているからか眠ってしまってるけどな。
自分の目が見えないことについて、彼女は特に気にしているような様子はなかった。当然か。もう生まれつきそうなんだから、カーシャにとってはそれが<普通>なんだ。そして俺達も、目が見えないことについて別にとやかく言わねえし。
だってそうだろ? 目が見えないカーシャを、俺はそうと分かってて引き取ったんだしよ。大前提として、彼女にできることをやってもらえればそれでいいんだよ。それ以上のことは望んでねえ。
実際、カーシャは、できないことを無理にやろうとして自ら危険を招いたりしない。それでいて、音の反響を利用しているらしい空間認識力は高く、家族が家のどこにいるのかをだいたい把握してるんだ。もちろんそれは家そのものが小さいということもあるだろうが、目が見える俺達が普段は意識していないかすかな音もカーシャは認識していて、ある時、
「тато、トーイがけがした」
俺が売り物のナイフを研いでいる時にそんなことを言いだしたりもした。すると実際、外で壁の修繕をしていたトーイが、レンガに指を挟んで怪我をしていたんだ。
俺はすぐに、煮沸消毒をして冷ましてあった水で傷口を洗い、包帯を巻いた。大袈裟にも思えるかもだが、まともな薬もほとんどないここで破傷風にでもなればもう命とりだからな。
幸い、怪我そのものは二日ほどでだいたい治ってくれたが、トーイは我慢強いからカーシャが気付いてくれないとそのまま作業を続けようとしてただろう。
病気や怪我において『我慢強い』ことは決して美徳じゃねえ。
すぐに気付いてくれたカーシャに感謝感謝だよ。




