嫌なことは忘れないタイプ
だから俺は、リーネやトーイやイワンやカーシャの前で話す。同じ人間として、コミュニケーションをとる。
「……」
トーイは今も基本的に無口だが、イワンは、
「でも僕は、お父さんやお母さんのことが許せない……自分らが僕の足を折ったクセに『役立たず!』と怒鳴ったあの人らが許せない……そんな人らとなんか仲良くできない……」
俺が引き取って二年余り。ようやく慣れてきてくれたイワンは、とても八歳(たぶん実年齢は七歳)とは思えない、利口だが明らかに<闇>を抱えた感じに育っていた。まあ、生まれてから五年間、実の親から虐げられてきてそれで二年やそこらでそういうのがきれいさっぱり忘れてしまえる方がおかしいだろ。ましてやイワンは頭がいい。特に嫌なことは忘れないタイプかも知れない。
こういうタイプは扱いを誤るとそれこそ大変なことになるだろうな。
でも俺は、
「そうだな。だから別に仲良くなんかする必要はない。俺だってそんな奴とは仲良くしたいとも思わない。イワンの両親のことだってぶん殴ってやりたいと今でも思ってる。でもな、そうやって俺がイワンの両親をぶん殴ったら、村の連中は俺のことをどう感じると思う? <理不尽なことでキレるヤバい奴>って感じるんじゃないか? 商売をする上でそれは<得>になるか?
確かにぶん殴ったその時はスカッとするかもしれない。でも、人生ってのはその<スカッとした瞬間>で終わるわけじゃねえんだ。その後も続くんだよ。なるほどイワンの両親だって、お前を俺に譲った時点でもう終わったと思ってるだろうさ。『きれいさっぱり片付いた』ってな。でも実際はこうして今もお前に恨まれてる。いつかお前に復讐されるかもしれない可能性はそのままになってる。そういうもんなんだ。
両親に復讐したい仕返ししたい報復したいって思うなら、その気持ちを俺は否定はしない。ただそれをしたら今のこの俺達の生活がそのままでいられるのかどうか、イワンなら分かるんじゃないか?」
「……それは……」
「どうなるか想像してくれたんだな。ありがとう。この生活をなくしたくないと思ってくれるか?」
「……うん……」
「なら、それが答だ。復讐したところでそれが必ず上手くいくとも限らない。失敗して返り討ちにでもあったらそれこそ目も当てられん。俺はそんなことでイワンを失いたくない。リーネだって悲しむ」
「……それは…分かる……」
「でもな。だからってただ『我慢しろ』と言いたいわけじゃないんだ。不満があるなら俺が聞く。言いたいことは俺に言え。八つ当たりしたかったら俺に八つ当たりすればいい。今は俺がイワンの親なんだ。お前の実の親はそれをしてくれなかったかもしれないが、俺はする。そのことを忘れないでほしい」




