他の奴らとは事情が違う
まあ、子供の内は大人に遠慮なんかする必要はねえと今なら思えるんだが、ここの大人共にそれをしようとしたら、たぶん、命にも関わるからな。やらねえほうが無難だろう。でも、リーネやトーイやイワンやカーシャが俺に対して遠慮しねえのは、一向に構わない。村の連中はリーネ達に対して何の責任も負っちゃいないからそもそもリーネ達の言うことを聞く必要もねえが、俺は仮にとはいえ<親>だからな。他の奴らとは事情が違う。
ってことを、分かってもらう必要がある。それは、リーネ達が大人になり親になったら今度は自分が責任を負う立場になるからだ。それをちゃんと手本として示さなきゃいけねえ。
口であれこれ言ったってこういうのは上手く伝わらねえだろ。だから実際の手本が必要なんだよ。
特にカーシャは、リーネ達と違ってほとんどここの<常識>で扱われてねえ。ほぼまっさらの状態だ。だから予断なくいろんなことを見ることができる。まあ、目は見えてねえけどな。
でも、
「タート! タート! だっこ! だっこ!」
素直にそう言ってくれる彼女を俺は、
「おお! まかせとけ!」
抱き上げる。俺の腕の中にいれば何も怖いことはないと分かっているのか、安心しきった笑顔で、
「きゃはははは♡」
と笑ってくれる。これが不思議とリーネやトーイじゃ駄目なんだ。イワンはそもそも重いものを持つのが難しいので抱かせないが、リーネやトーイは、ちゃんとカーシャを大事に扱ってくれるんだが、明らかに俺に抱かれてる時とは様子が違う。なんか不安そうにしてぎゅっと掴まってるんだ。笑顔もほとんどない。
単純に体格の差で、包み込まれる感じが圧倒的に違うというのもあるのかもしれないけどな。
でも、それでいいと思う。リーネやトーイは、姉や兄ではあっても、親じゃない。自分と同じく親である俺に庇護されてる側だ。安心感や頼りがいの点でまるで違っても当然だ。
それを理解せずに、リーネやトーイにカーシャを任せて自分は楽をするなんてのは、言語道断だろ。
前にも言ったかもしれないが、前世じゃ、
『仕事よりも子育ての方が楽だ!』
とか言ってるのがいたが、じゃあ、なんでそんな楽なのをやろうとしねえんだよ? 楽なんだろ? 仕事しながらでも余裕なんだろ? だったらやれよ。やってみせろよ。『楽だ』ってえんならよ?
今の俺は仕事よりも子育ての方が楽だとは思っちゃいねえし、そもそも比べるようなものじゃねえ。加えてそれはあくまで親の役目であって、子供に子供の世話を丸投げするのは違うとしか思わねえな。
子供に育てられた子供は、大人になり切れんのか?
 




