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冒険なんかじゃねえ

こうして立てるようになったカーシャだったが、面白いことに、確実に安全が確保されている時にしか立ち上がろうとはしなかった。しかも、ほんの数歩、俺に向かって歩いてくるだけだ。


これはもしかすると、俺の反応が嬉しくしてやってるだけなのかもしれない。俺の声が弾んでるのを察して、俺が、


「すごいぞ、カーシャ!」


嬉しくて仕方なくてそう言って彼女を抱き締めるのを求めて、<遊び>としてしているだけかもしれない。


普通の人間は、立って歩くことで行動範囲を広げていくわけだが、目が見えないカーシャにとっては、自分の感覚で安全を確認していない場所に行くのは、<冒険>どころじゃない<危険行為>だ。<冒険>ってのは、事前に十分な準備をして自力で安全を確保できる範囲内で行うもんだ。それなしで無謀な真似をするのは、<危険行為>であり<自殺行為>だ。冒険なんかじゃねえ。


自分の知らないところに行くにしたって、危険を予測せず対処法を考えもせず単なる思い付きで突っ込むのはただの馬鹿だろ?


カーシャはまだ実年齢で二歳半ばくらいのはずだが、それをちゃんとわきまえてる。考えてみれば、野生の動物なんて人間の幼児以下の知能しかないような奴だってちゃんと生きてるよな? 生きていけるよな? だから改めて、<知能>は生きる上で絶対に必要なものじゃないってのを感じたよ。人間が勝手に『知能がなきゃ生きていけない』と決め付けているだけだ。


まあ確かに、<人間社会>は五体満足かつそれなりの知能を持っていることを前提に作られているから、そうじゃなきゃ生きていくのは難しい仕組みになってるが。


でも、うちの家の中だけなら、彼女も何があってどうなってるかを把握して生きていくことはできると思う。危険な場所、自分は近付かない方がいい場所も、わきまえてくれるだろう。野生の動物だって、自分が危険だと判断した場所には近付かなかったりするだろ? 人間が勝手に『可愛い♡』とか思って餌をやろうとしても簡単には近付いてこなかったりするだろ? スズメでさえそういう判断はするんだ。カーシャにそれができない理由はなにもない。


それに、別に無理に家の外に出て行く必要もないだろ。家の外に出て行く挑戦をしたいと考える奴はすればいい。だが、全員が全員、『家の外に出たい!』と本気で願ってるのか? 自分の子供がハンデを抱えてることを恥と考える親が、ハンデを持ってない奴と同じことをさせようとしてるだけって場合は本当にないのか?


子供は親の体裁を繕うための道具じゃねえぞ。



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