配られたカードでやっていくしかない
で、リーネの方は、知識だけはまああるみたいだから自分で対処してくれた。俺としては、その辺についてはただ事務的に接するだけだ。騒ぎ立てる必要も狼狽える必要も変に祝ったりする必要も感じない。
<親ガチャ>って話になると必ず現れた、
『配られたカードでやっていくしかない』
とかホザいてる連中の理屈に乗るなら、
『娘が初潮を迎えた』
とかいう話だって、オタオタすんじゃなくてできることを淡々とすればいいだけだろうが。それをなんで面倒臭くする? 目の前の現実に合理的に対応するだけで済むじゃねえか。
他人にゃ『配られたカードでやっていくしかない』とか分かったようなことをホザくクセにてめえが困った時にゃ右往左往する奴とか、マジでダセエよな。
ぜんぜん、配られたカードでやっていけてねえじゃねえかよ。
ま、これも実は前世の俺自身のことだけどよ。
リーネもトーイも<人間>だ。生きてる人間がなることだったらなる可能性はいつだってあるんだよ。トーイも<精通>がいつか来るだろ。そん時にも変に囃し立てたりしないでおこうと思ってる。
健康な男なんだから出るもんは出る。起つもんは起つ。そんなもんただの生理現象だ。オタオタすんな。
でもまあ、見せびらかすもんでもねえのはわきまえる必要もあるけどな!
リーネのことも、囃し立てたりしない。あるもんはある。それだけだ。
こうして無事に初潮も迎えられて、でも別にそれまでと何も変わりなく、当たり前に日常を過ごす。少しずつ気温も上がってきて、空気が春めいてきた。外の風呂に氷も張らない。
そうなると次に来るのは農作業だ。農閑期の間にいろいろ準備もしたものの、さあいざ農作業を始めようとすると、去年までは使えてた農機具がいきなりぶっ壊れることもある。で、俺のところに注文が入る。
「犂はあるか!?」
納品のために村に下りたら、いきなり捉まった。
「ああ。これでよければ」
注文が入って作った品じゃなかったが取り敢えず荷車に乗せてあった犂を示すと、
「ありがてえ!!」
大喜びでポンと金を払って持っていった。現金だけで支払う奴は珍しいが、それだけ困ってたんだろう。ありがたく受け取っておく。
けどまあ、現金なんてあんまり使い道なくて、物々交換の方が実はありがたかったりするけどよ。
金が溜まればまた、エリクに絵本を注文するさ。
さて、また忙しくなるぞ。
俺は改めて気合いを入れ直す。俺達三人の暮らしを平穏なものにするために頑張らなきゃな。
と、思ったんだが、二年後、俺の家にはさらに子供が二人、増えていたのだった。