一番の丁寧な説明
「リーネ、ケガしたの……?」
リーネが綿を持って風呂場にいったのを見たトーイが、不安そうに俺に訊いてきた。トーイもリーネの脚を伝う血を見たようだ。それに対して俺は、
「いや、あれは怪我じゃない。病気でもない。女の人はあんな風に血が出ることがあるんだよ。病気じゃないが、血が出るくらいだから痛かったりつらかったりすることはあるらしい。リーネもこれから機嫌が悪くなることもあったりするかもしれないけど、そういうもんだからあんまり気にしないでやってくれ。頼む」
今の時点の俺にできる一番の丁寧な説明をしてみせた。医学的な説明をしようにも、ここじゃそもそも医学的な知識が普及してないから、余計にわけ分からなくなりそうだと思ってやめておいた。するとトーイは、
「分かった……!」
と俺を真っ直ぐに見上げながら言った。トーイには、もうすでに、
『リーネを守ってあげたい』
という気持ちが芽生え始めてるらしい。それが、
『優しいお姉ちゃんだから』
ってことでも構わない。
『リーネとトーイが結婚してくれたら安心だ』
なんてのは俺の単なる願望だ。リーネやトーイがその通りにする必要はまったくない。
ただよ。正直、今のトーイを見てるだけでも、少なくともトーイ程度にはリーネを大事に思ってくれる男にしか彼女はやれないなとは思う。ブルーノを始め、村で亡くなった子供達を育ててたような親が育てた子供じゃ彼女を大切にしてくれる印象がまったくない。
ブルーノを見捨てた大人達と同じような大人になって、リーネとの間に生まれた子供を家畜のように扱って、それで死んでも家畜が死んだくらいにしか考えないような奴らにはやりたくないんだよ。
リーネがつらい思いをする未来しか見えないからな。
その点、トーイならリーネのことをよく知ってるし、守ろうと考えてくれてるし、安心なんだよなあ。
とは言え、それを強要することもできないし、したくない。俺は、二人に幸せになってほしいだけなんだ。親の勝手でこんな世界に放り出されて、それで家畜としてこき使われて、生き延びるのは五人中三人程度だとか、今はそれが当たり前なんだとしても、俺はそれでいいとは思わない。
少なくとも俺の下に来てくれたんなら、幸せになってもらいたいんだよ。
俺に対して文句を言ってもいい。
俺に対して反発してくれてもいい。
殴りたいってんなら殴られてやる。
俺は完璧な親じゃないから、そりゃ上手くいかない部分もあって、それに対して不平不満を抱くことだってあるだろう。
その程度のことも受け止められないで、よく大人ぶれるなってもんだ。




