父親だけの世帯で娘がいると
さらに淡々と日々を過ごし、いよいよ春めいてきた。もうすぐ、リーネと出逢ってから一年だ。なんか、俺んとこで暮らし始めて栄養状態が良くなったのか、明らかに成長してる。はっきりと十歳くらいに見えるようになってる。まあそれでも、リーネの実際の年齢よりは幼く見えるが。
ただ、一年で実際に一年分程度の成長を見せたってことは、実の親や叔父夫婦のところにいた時には、たぶん、満足に食わせてもらえてなかったんだろうなってのが察せられてしまう。
いや、単に年齢的に一気に体が成長する時期に差し掛かったってのもあるのか? でもなあ、生理はまだみたいだしなあ……
父親だけの世帯で娘がいると、娘の生理についていろいろ困るらしいという話も前世じゃ聞いたが、今の俺からすると、
『そんな気にする話か?』
って思うんだ。基本的にたいていの女ならあることだろう? たまにないのもいるかもだが、それについては今は敢えて脇に置かせてもらうが、俺だってなんだかんだとその手の話にゃ触れてきてるしな。あって当たり前のもんについてオタオタするのも変じゃねえかな。
とは思う。
で、念のために言っとくが、
『女には生理があるのが当たり前だ』
とか言いたいわけじゃねえぞ。勘違いすんなよ? あくまで、
『リーネが初潮を迎えたら親としてどう対処するか?』
って話をしたいだけなんだよ。<ジェンダー論>とかの話をしてるわけじゃねえ。余計な口出しすんな!
とか言っても、ここにゃネットとかもねえから、そんなのは聞こえても来ねえけどよ。
なんにせよ、リーネが初潮を迎えても淡々と必要な対処をするだけだし、こなかったらこなかったで構わねえ。結婚して子供を生むだけが人生じゃねえんだ。この世界じゃそういう考え方はまだまだ受け入れられねえだろうが、他人の戯言なんざ気にする必要もねえ。リーネはリーネだ。それでいいじゃねえか。
と思ってたら、
「あ……!」
食事の用意をしてたリーネが声を上げたから思わず視線を向けると、彼女の脚を赤いものが伝うのに俺も気付いた。彼女が下を向いてたからだ。
「<月のもの>か?」
俺が事務的に尋ねると、彼女は、
「そうかも……」
と戸惑ったように応える。
「やり方は知ってるか?」
俺の問いに、リーネは、
「はい……叔母さんがやってるのを見てましたから……」
ここじゃ、母親なり姉妹なりが実際に処置してるのを見ることでやり方を学ぶそうだ。で、基本的には、
『綿を詰めて栓をする』
ってのが普通らしい。そのための綿は、もうすでに用意してある。本人が知ってるなら、俺が見てる必要もないだろ。
綿を持って風呂場に行った彼女を見送っただけだった。