甘やかされて育って
俺がそんなことを考えながら鍛冶の用意をしてる間に朝食は出来上がって、三人でテーブルを囲んだ。
干し肉を入れた野菜スープにパンを浸して食う。基本的には朝も晩もメニューは同じ。この前みたいに獲物が獲れりゃバリエーションが増える程度だな。それでもこうやって明日も明後日もちゃんとメシの算段ができるってのは、それだけでありがたいもんだ。
作物が不作だったり獲物が全く獲れなかったりしたら、それでもう破綻するわけだからな。
前世の世界がどれだけ恵まれてたのかが分かるってもんだ。スーパーやコンビニに行きゃ、金さえあればだいたいなんか食えるもんがあるんだしよ。そんな世界で、
『ガキを甘やかしたらロクな大人にならない!』
とか、改めて笑えるぜ。甘やかされてんのはてめえだっての。一から作物も作らねえで、自分で弓と矢作って獲物を追ったりもしねえで、それのどこが『甘やかされてない』って? そんな甘やかされた奴が『甘やかすな!』って、なんのコントだよ。
自分がブルーノみてえに親にコキ使われた挙句に死ぬような境遇で生き延びてきてねえなら、そりゃあ十分に『甘やかされて育って』んだよ。甘やかされて育った奴が他所様の子供に『甘ったれるな!』だ? てめえの寝小便の後始末してから出直しな!
だからもちろん、リーネにもトーイにも、他所様に面と向かって、
『甘ったれるな!』
なんて言わせねえよ。ブルーノみてえな境遇にゃしないからな。他人様に面と向かってそんなこと言う資格あんのは、それこそブルーノみてえな境遇で生きてる奴だけだろ。
てえこたあ、前世みたいな社会で生きてる奴で他所様に面と向かって『甘ったれるな!』とか言う資格がある奴なんざ、滅多にいないってことだろうなあ。
そもそも、自分もそんな風に言われたくないだろ? だったら他人様にも言うんじゃねえよ。
ってことを、俺は自分の振る舞いでリーネとトーイに示すんだよ。二人に対して『甘ったれるな!』とか怒鳴らねえ。分かるまで丁寧に教える。
『教え方を教える』
ということだな。リーネがトーイに丁寧に教えてくれてるのは、幸いだった。
「トーイもいろいろ手伝いが上手になってきたな。これもリーネが丁寧に教えてくれてるおかげだな」
朝食を食べながらそう言うと、彼女は、
「いえ、そんな……私が怒鳴られたり叩かれたりしたのが嫌だっただけで……だからトーイにはしたくないんです……」
って言ってくれたんだよ。
だからこそ、彼女がそんな風に思える環境を俺は作り上げなきゃいけないと思ってる。