そんなもんは気合いで克服しろ!
俺の村にもいたよ。ホントは<お化け>が怖いクセに普段は偉そうにしてる奴が。そいつも、子供の頃に親に荒療治で、
『そんなもんは気合いで克服しろ!』
的にやられたらしいが、実際にはまったく治っていなかったわけだ。ただ誤魔化すのが上手くなっただけで。
もっとも、知ってる奴は知ってたけどな。俺もその一人だ。だから内心ではそいつのことを馬鹿にしていた。腕っぷしだって別に俺の方が劣ってるってわけでもなかったしよ。
でも考えてみりゃ、そういうのを突いて相手を笑いものにしてそれで何か合理的なメリットが生まれるか? 無駄にそいつに恨まれたりするだけで、精々、マウント取れていい気分ってだけだよな?
目先の気分だけでそっちを優先して、後々の厄介事の火種を作るのが、賢い奴のすることか? 俺にはまったくそうは思えないんだが?
だから、やらなかった。まあ、そいつも麓の集落に避難してただろうが、たぶん、死んだだろう。結果として火の粉はそもそも降りかかってこなかったにせよ、もし生きてたら面倒なことが起こってたかもしれない。
誰かに恨まれたりってのは、そういうことなんだよ。
だったらリーネやトーイにそういう形で誰かに恨まれたりってのをさせようと思うか? 俺は思わねえな。リーネやトーイがそんな形でわざわざ自分から厄介事を招こうとするのを黙ってみてるつもりはない。自分の子供がむざむざ不幸になるのを黙って見てる親とか、普通に最低だと思うぞ?
そうやって他の奴の苦手なことを暴き立てて嘲笑って見下して、そんな奴がもし困ってたら、助けたいとか思うか? 力になってやりたいと思うか?
まあ、『恩を売ってドヤりたいから力になる』とか考える奴はいるにしても、そういうのは上手くいく当てもないしな。
それどころか相手が立て直して盛り返したら、結局、やり返されたりしないか?
そんなリスクを自分の子供に抱え込ませたいか?
俺はごめんだね。
だからこそ、トーイのそういうのも、嘲笑って見下して蔑んで荒療治で何とかしようとも思わない。トーイ自身が成長していろいろ分かってきて、それで、
『ああ、怪物なんて本当はいないんだ』
って納得してもらって平気になってもらう方が確実にいいと思うんだけどな。少なくとも、<お化け嫌いのあいつ>みたいにはならないだろ。
それでいいじゃないか。
だいたい、『怪物が怖い』ってのは、当人にそれだけの想像力があるっていう証拠だぞ? そういう具体的な想像ができるだけの知能があるってことだ。